無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~
「あの薬屋さん、場所がもっと良ければ申し分ないんだけどなぁ」

 リディアは足を止めずにひとりぼやく。
 陽の当たらない石畳には苔が蒸しており、辺りを湿った空気が覆っていた。すんと鼻腔を掠めるのは、腐った残飯や汚物の悪臭だ。

「ん?」

 ふと、遠くからがやがやと喧騒が聞こえてきて足を止める。

「もしかして──」

 リディアは喧騒のほうに向かい、半円状に広がった人垣の隙間からその中心部を覗き込む。案の上、そこには首輪を付けられた人間が立たされていた。

「……また、やってるのね」

 鎖を持って立っているのは、いかにも柄が悪そうな中年の男だ。そして、その鎖は若い男の首に嵌められた首輪に繋がっていた。

「どうだ。まだ若いからたっぷり搾り取れるぜ?」

 奴隷商の男は何本か欠けた歯をむき出しにして、ぐへへと嫌らしい笑いを漏らす。ぐいっと首輪を引かれ、売り物の男が苦しげに呻き声を漏らした。そこらじゅうが破れた衣服の合間から見える肌には、新しくない痣が複数あるのが見えた。

(なんてひどいことを)

 リディアはぎゅっとこぶしを握る。


 この国には、奴隷制度がある。
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