無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~
 リディアは二人の元に駆け付けると、自分も木の棒を持って構えた。力いっぱい、幼獣に向かって棒を叩きつける。キャインと悲鳴を上げて、幼獣が後ずさる。

「早く、逃げて!」
「あ……」

 腰が抜けてしまったのか、母親と子供は尻もちをついたまま立ち上がらない。
 そうこうするうちに、ひゅっと目の前に黒い巨体が飛び出してきた。

 犬に似ているけれど、サイズは馬より大きい。
 逆立つ毛は黒く、額には一本のねじれた角が生えていた。裂けた口からはしきりに涎を垂らしている。

(この子たちの親だ!)

 あまりの大きさに、リディアは体を硬直させる。
 巨体が地面を蹴った。

(噛まれる)

 死ぬかもしれないと、覚悟する。
 無意識に両手で頭を抱え込み、ぎゅっと目を瞑った。

(襲ってこない?)

 一向に何も襲ってこず、恐る恐る目を開ける。
 リディアは目の前の光景に、目を丸くした。

「……レイ?」

 リディアと魔獣の間にはレイが立ちふさがっていた。レイは片手を魔獣に向けており、魔獣は動けなくなったかのようにピクリともしない。

(何? どういうこと?)

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