無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~
 先ほどまで、目の前で起きていた光景が信じられない。

(あれは、本当にレイなの?)

 自分の知っている、甘えてきて、笑って、ときどき拗ねて――そんな彼と同じ人間なのか。

「……大丈夫、よ」

 ようやく絞り出した声は、かすれていた。
 レイの手が、そっとリディアの頬に触れた。
 優しく、壊れ物に触れるみたいに。

「よかった」

 レイは安堵したように息を吐く。
 優しいその声に、リディアは小さく震える。目の前にいるレイが何者なのか理解できず、怖かった。



 その日は結局、シリルのところに連れて行くどころではなく、リディアはまっすぐに家に戻った。
 夕食を食べてても、お風呂に入ってても、思い浮かぶのは日中見たあの光景だ。
 リディアはソファーに座ったまま、ひざを折って体にぎゅっと引き寄せる。

(レイは本当はフォシニじゃなくて、魔法使いなのかな?)

 でも、それならどうしてフォシニのふりをしたのかがわからない。レイを買った時、彼は確かにフォシニとして奴隷商に売られていたのだ。
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