モフモフ王子様のお世話係になりました!~イケメン王子と秘密の共同生活~

6話 あなたは、だれ?

その夜のこと――。

のどがかわいたわたしは、そっとベッドを抜け出した。

「ふわぁ……。お水飲んだら、すぐ寝よっと」

眠い目をこすりながら階段をおりる。

すると――。

ガサッ。

ゴソゴソ。

「……え?」

一階から妙な音が聞こえた。

ガタン。

ゴトッ。

「え、なに今の」

心臓がドキッとする。

パパのいびきは二階から聞こえている。

つまりキッチンにいるのはパパじゃない。

じゃあ――誰?

「ま、まさか泥棒!?」

一気に目が覚めた。

わたしは玄関の隅に立てかけてある金属バットを握る。

「だ、大丈夫……。漫画では主人公がこういう時に活躍するんだから……!」

でも足はガクガク震えていた。

「いや無理かも! 怖い!」

それでも勇気を出してキッチンへ向かう。

扉のすき間から中をのぞくと、冷蔵庫の前に誰かいる。
でも、暗くてよく見えない。

ゴソゴソ。

ガサガサ。

人んちの冷蔵庫を漁るなんて、完全にあやしい。
しかも、冷蔵庫の扉で上半身は隠れているが、下半身は毛むくじゃらの足が見えてる。

「だ、誰!?」

思い切って叫んだ。

「そこにいるの、誰なの!?」

しーん。

返事はない。

「返事してよぉ……」

わたしは半泣きになりながら近づく。

「ねぇ! 誰なの!?」

その瞬間。

パタン。

冷蔵庫の扉が閉まった。

現れたのは――

黒髪の少年だった。

「……え」

思わず言葉を失う。

長いまつげ。ひときわ整った顔立ち。

夜中の冷蔵庫の前じゃなかったら、王子様みたいな美少年。

でも。

「いや、誰ぇぇぇぇ!?」

わたしのツッコミが炸裂した。

少年は平然としている。

むしろ感心したような顔で、

「もごもご……ごっくん」

口の中のものを飲み込んだ。

そして満足そうに微笑む。

「甘くて口の中でとけるようだ」

「ん?」

「こんな美味なスイーツは初めて食べた」

「んん?」

少年の手を見る。

そこにあったのは――。

「プリンッ!!」

わたしの悲鳴が響いた。

「それ私のプリンッ!!」

少年は首をかしげる。

「そうなのか?」

「そうなのかじゃないよ!」

わたしはバットを振り回した。

「パパが買ってきてくれた最後の一個なの! 明日食べる予定だったの!」

「なるほど」

「なるほどじゃない!」

「しかし美味だった」

「感想いらない!」

少年は空になったカップを見つめる。

「特にカラメルの苦みと甘みの調和が――」

「プリン評論家にならないで!」

「そうか」

「そうかじゃないよ!」

すると少年は真面目な顔になった。

「では、明日も買ってきてくれ」

「……はい? なんで!?」

わたしは思わず叫んだ。

この子、図々しすぎる!

少年は不思議そうに首をかしげた。

「だが、君も好きなのだろう?」

「好きだけど!」

「なら二人で食べればよい」

「そういう問題じゃないでしょ!」

危うく説得されそうになった。

いやダメだ。

問題はそこじゃない。

「そ、それより!」

わたしはバットを突きつける。

「あんた誰なの!?」

少年は背筋を伸ばした。

どこか気品のある仕草。

「見つかってしまったなら仕方ない」

「うん」

「わたしはリアン、隣の国、華琉国の第二王子だ」

「うん」

数秒後。

「はぁぁぁぁ!?」

わたしは絶叫した。

「王子!?」

「そうだ」

「なんで!?」

「第二王子だ」

「そこ聞いてない!」

リアンは少し考えた。

「第一王子ではない」

「知ってる!」

頭が追いつかない。

王子? 外国の?

なんでうちの冷蔵庫に?

なんでプリン食べてるの?

「ていうか!」

わたしはあることに気づいた。

「さっきまでパンダの足が見えたけど?」

リアンがぴたりと固まる。

「……」

「ねぇ!?」

「……見ていたのか」

「見てたよ!」

「そうか」

やっぱり、この子すっごく怪しい!!
わたしはバットを握り直した。

「説明して!」

リアンは静かに言った。

「あれもわたしだ」

「え?」

「パンダもわたしだ」

「えぇぇぇぇ!?」

頭の中に大量のハテナが飛び交う。

「どっちが本物なの!?」

「どちらも本物だ」

「意味わかんない!」

「人の姿にもなれるし、パンダの姿にもなれる」

「もっと意味わかんない!」

リアンは腕を組んだ。

「我が国の王族は特殊な力を持つ」

「そんな設定みたいな話ある!?」

「ある」

あるのかぁ……。

リアンは続ける。

「ただし空腹になるとパンダに変身してしまう」

「えーっ!?」

「だから今こうして、プリンを食べていたところだ」

「それ、プリン食べたこと誤魔化そうとしてない!?」

思わずツッコむ。

するとリアンは少しだけ笑った。

「でも、助かった」

「え?」

「君が見つけてくれなければ、見ず知らずの国で、倒れていたかもしれない」

そう言ってまっすぐ見つめてくる。

「ありがとう、天音」

「なっ!?」

わたしは飛び上がった。

「なんで名前知ってるの!?」

「君の父上が何度も呼んでいた」

「あ……」

確かに。

「天音ー!」「天音ー!」

とパパは一日十回以上呼んでいる。

リアンは当然のようにうなずいた。

「だから覚えた」

「盗み聞きしてたんだ……」

「聞こえただけだ」

「同じようなものだから!」

するとリアンは再び冷蔵庫を開けた。

「あ」

ごそごそ。

そして新たなプリンを冷蔵庫から取り出す。

「……これは?」

「ダメ!」

「まだ食べてないだろう?」

「だからダメ!」

「半分」

「ダメ!」

「ひと口」

「ダメ!」

「スプーン一杯」

「ダメーッ!!」

「ケチだな……」

「なんなの、この子ー!!」

夜中の家に、わたしの叫び声が響き渡った。
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