君が照らす人生は、いつだって温かい





「あのとき、言えなかったんです」



気づけば、自然に言葉が出ていた。



「何を?」



「ありがとう、って」



川沿いの冷たい空気。

喉の奥にひっかかった言葉。



「〝今日まで生きてきたんだよ〟って言ってくれて。あの一言がなかったら、たぶん、今ここにいないです」



それは、大げさでもなんでもなかった。

春日井先輩は、
真剣な顔で私の言葉を受け取る。



「だから、今、ちゃんと言いたくて」



一度、深く息を吸う。



「……あのとき、助けてくれて、ありがとうございました」



言い終えた瞬間、胸の奥にあった何かが、
すっと軽くなった。

春日井先輩は、少しだけ目を細めた。



「どういたしまして」



ゆっくりと、そう返してくれる。



「こっちこそ、ありがとう」



「え?」



「ちゃんと生きててくれて」



言葉の重さに、涙腺がきゅっとなる。



「高校でまた会ってくれて。図書室で話してくれて。空き教室で歌ってくれて」



一つひとつを数えるみたいに、
春日井先輩は続けた。



「〝あの夜の先〟を見せてくれて、ありがとう」



病院の白いカーテンが、
エアコンの風で少し揺れる。

川沿いの夜と、病室の昼が、
一本の線でつながった気がした。

あの夜、真っ暗な川面に落ちた言葉。

誰にも届かなかったはずの『ありがとう』が、
やっと本人の手の中に渡った。


――あの夜の〝ありがとう〟を、やっと本人に渡せた。


そう思った瞬間、胸の奥で小さな音がした。

何かがほどけて、次のページが開く音だった。
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