台本通りの恋はしない!
爽真がゆっくりと歩いてこっちに回り込んでくる。
何を考えているのかわからない無表情に、緊張が走る。
爽真から目を離さないようにしながら、冷蔵庫の扉をさりげなく閉めた。
「……」
爽真は何も言わないまま、どんどん距離を詰めてくる。
(……いや、近っ……!)
こいつ、ソーシャルディスタンスとか知らないの?
私が昼間紫苑にしたみたいな、触れ合うかどうかくらいの距離で止まる。
暗がりでもわかる作り物みたいな綺麗な顔が、じっと私を見下ろす。
ドキドキしてる胸が、勝手に音を変えた。
上を向いたまま、視線を逸らすことができない。
しないんじゃなくて、できない。
手に滲んだ汗を、Tシャツの裾を掴んで誤魔化す。
何か言わなくちゃ。
そう思った時、爽真の口が先に動いた。
「……誰?お前」
「はっ?」
……おっと。思わず素の声が出た。
急いで笑顔を取り繕って、あざと声にチューニングを合わせる。
「えと、……瑠奈だよ?髪型違うからわかりにくかったよねぇ。ごめんね?」
爽真の眉が僅かに寄る。
まさか覚えてない?
記憶の中の瑠奈と照合してるだけならいいんだけど。