台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
トン、と触れ合う額同士。
お互いの前髪が擦れる音が耳に届く。
後頭部を押さえていた大きな手が後ろ髪を連れながら頬へと滑って、私の顔を包み込む。
揺らがない夜色の瞳が間近で真っ直ぐに私を見つめて、苦しそうに細くなる。
あとちょっとの距離を、なくしたいのになくしきれない。
そんなもどかしさを押し込めて、なおも私を見続けた。
「行けば……こうやって、瑠奈を追い詰めると思ったし、」
悪いことを白状する時みたいな、弱々しい爽真の声。
「瑠奈の気持ちを無視して、台本を捨てろって言いたくなると思ったから」
伏し目がちの爽真の顔が、僅かに角度を変えて近づく。
思わず息が止まって、反射的に目を細めた。
もう、触れる。
そう思ったのに、唇同士が掠めそうになる寸前でその動きは完全に止まる。
限界になって呼吸を再開した途端――
濃すぎる石鹸の匂いと、甘酸っぱいソーダの香りが脳を侵す。
そのまま、数秒。体感では永遠。
近すぎる距離で見つめ合って、爽真はゆっくりと離れていった。
「……アイツがいいなら、少しは嫌がれば」
私の頬を包む手が、滑り落ちていなくなる。
生ぬるい外気がそこだけやけに涼しく感じて、たまらなく寂しくなった。
(嫌……じゃ、ない……)
爽真だから。爽真からなら。
口にしたくなる衝動が一瞬訪れて、唇を噛んで抑制する。
だって私は、台本を捨てられない。
そんなことをしたら、みんなが、爽真が――
辛い目に遭うのを、わかっているから。