台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―

――爽真を廊下に残して、美玲だけがリビングに戻る。

1人分の物音を捉えた紫苑が、清々しさと未練、矛盾した感情を浮かべる美玲に振り向いた。


「――俺は、台本を貫くよ」


急に声をかけられて驚く美玲に見向きもせず、紫苑はすぐに顔を前に戻す。
美玲が何か言う前に、さらに言葉を続けた。

「それが香月さんとの協定だから。ま、俺自身の今後のためでもあるし。
美玲ちゃんはどうする?俺、一応優しい彼氏もできるよ」

固まる美玲の気配を感じながら、紫苑は怖いくらい単調にそんな言葉を並べる。
口元には薄ら笑い。目は少しも笑っていない。

「純愛カップルだし、最低でも半年かな?ビジネスカップル。やるならそのくらい徹底しないとね」

「あの……紫苑くん……」

「明日までに決めときなよ?美玲ちゃんには、爽真のおかげで選択権の余白があるんだから」


“爽真”の言葉に反応した美玲が、急に慌て出す。


「……私、爽真くんとは……っ」

「第3の選択肢。どっちも選ばない」


紫苑がまた美玲の方を振り向いて、ハッキリとした声で遮る。
その顔には笑みもなく、真っ当なことを言っている、そんな態度だった。


「断るなら、“ヒロインの美玲”らしい文句――考えといてね?美玲ちゃん」

それだけ言うと立ち上がって、キッチンに向かって歩き出す。
目を泳がせて狼狽している美玲を、紫苑がもう見ることはない。

冷蔵庫から取り出した水のペットボトルの蓋を開ける乾いた音が、広いリビングに響いた。

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