台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―

みんなの目が、静かに爽真へと向く。
紫苑だけは、音もなくそっと目を伏せた。

「……俺が知ってる瑠奈は、」

机上においた手をぼんやりと見つめながら、爽真が呟くように口を開く。


「悪役を背負わされたことに、ものすごく腹を立てていて……」

『……誰よりも理解してるっつーの』
初めて素の瑠奈と出会った時の、痛烈に歪んだ顔を思い出す。


「なのに、人一倍プライドを持ってその役を全うしようとしていた」

『私は、“悪女の瑠奈”を演りきりたい。
それが女優・香月瑠奈に任せられた仕事だから』
『紫苑一本化計画は理に適った作戦なんだって!』

本当の顔がわからなくなるくらい、演技の仕事にのめり込んで。


「……自分は平気で傷だらけになるくせに、人の傷にはやたら敏感だし、」

『でももしかして、爽真は違った?
間接的でもゲスっぽいこと言われてる私を見て、また傷ついてた?』

鈍感だけど、気付けば素直に謝って。
だけど頑固に、傷を受けにいくことはやめない。


「自分自身には厳しくて、あんまり欲求を話さない」

『ひよりが私のことを友達ですって。
どう思う?これ。悪女としてはダメじゃない?』

『爽真』

体に回った細くて壊れそうな腕と、華奢な体の感触を思い出す。
最後まで瑠奈は、自分はどうしたいかを言わなかった。


「勝手だし、強情だし、一度決めたら人の意見は聞かないし。
悪い奴なんかじゃ絶対にないけど、ヒーローみたいに優しいだけの奴でもないんだよ。瑠奈は」


誰も、何も、言葉を返さない。

大窓に降り注ぐ夏の日差しが雲の動きで強まったり弱まったりするのと、冷房機器の単調な動作音だけが時の流れを示している。

ふー、と紫苑が深く息を吐き出した音すら大きく聞こえる。
爽真は静かに立ち上がって、引力のある夜色の瞳を鋭く細めた。
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