台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―
潮騒に溶ける、甘い沈黙。
胸で緩く握った手を、美玲は静かに下ろした。
「ごめんなさい」
紫苑より深く、頭を下げる。
ゆっくりと頭を上げた紫苑が、少し驚いているような傷ついているような顔で美玲を見た。
「今の私は、すごく不誠実。
心の中に、爽真くんも紫苑くんもいる。
――そんな状態で、私は紫苑くんの手を取れない。
だから、ごめんなさい。紫苑くんとはお付き合いできません」
頭を下げたまま、罪悪感に潰されそうなのを必死で耐えているような声。
そんな美玲を前にして、紫苑は呆然としている。
――それなのに、突然。
ふっと綺麗に微笑み出す。
“いいね、正解”
王子の顔の奥の奥に、策士で黒い紫苑の素顔が見えた気がした。
「顔上げて。美玲ちゃん」
溶けるほど優しく寄り添う声。
紫苑、そしてカメラへと上がる美玲の顔は思った通り弱りきっている。
「正直に話してくれてありがとう。
……悔しくないって言ったら、嘘になる気がするけど」
“紫苑”が選ぶ言葉は、全部優しくて綺麗。
「出会えてよかった。次はお互い、もっといい恋しようね」
美玲ばかり見つめていた紫苑が、一瞬だけカメラを見る。
にっと屈託なく細まる蜂蜜色の瞳。
私が知る、成宮紫苑の素の笑顔。
“演りきったよ、香月さん”
――勝手に、すごく勝手になんだけど。
そんな風に言われた気がして、鼻の奥がツンと痛くなった。