ORANGE×BOY
「茉那、ごめん! ちょっと急に体調が悪くなっちゃったから、今から早退するね!」
ガラッと激しい音を立てて教室のドアを開け、飛び込むなり、咲良は自分の机の上の荷物を猛烈な勢いでかき集め始めた。
開いたままの教科書をカバンに突っ込み、お気に入りのメイクポーチを放り入れ、ペンケースを押し込む。
火事の現場から家財道具を運び出す避難民のような、ものすごい速さで帰宅の準備を整えていく。
咲良のそのあまりにも無駄のない、神がかった手際の良さに、席で待っていた茉那はぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「え、ちょっと咲良!? どーしたの、一体!?」
「ちょっとね、深刻な体調不良なの! だからもう帰る!」
「いやいやいや、待って待って! 動きが素早すぎて残像が見えるんだけど! それ、絶対に体調悪い人の動きじゃなくない!?」
「いいえ、これが私の体調不良のときの動きなの! 特殊なの!」
「えええ、絶対違うくない!?」
もっともすぎるツッコミだったけれど、今の咲良には丁寧に解説をしてあげている余裕なんて一秒たりともなかった。
今すぐこの学校という名の包囲網から脱出しなければ、大変なことになる。
咲良の生存本能が、毛穴という毛穴から冷や汗を流しながらそう告げていた。
あのまま購買の廊下にいたら、あの金髪先輩に捕まるか、あるいは周囲の女子生徒たちの嫉妬の炎で消し炭にされるかの二択だった。
いや、もう既に状況は十分すぎるほど面倒くさい。
なぜか名前を知られている時点でかなり不利なのに、これ以上あのヤンキーのせいで学校中の注目を浴びるなんて、冗談じゃない。
お断りだ。
「とにかく、そういうわけだから、じゃあね!」
スクールバッグをガシッと肩にかけ、咲良はそれだけを一方的に言い残して教室を飛び出した。
「え、ちょっと咲良ー!? あとで絶対に詳しく教えてよー?! もー!」
背後から茉那の不満げな叫び声が追いかけてくる。
けれど、咲良決して止まらない。
一刻も早くこの敷地内から脱出するのだ。
一年の教室があるフロアを駆け抜け、階段を二段飛ばしで下り、廊下を曲がる。誰の視線にも捕まらないように、まるで見えない敵から逃れるスパイのように急いで昇降口へと向かった。
柔らかな昼の光が、階段の踊り場にある大きな窓から、白く眩しく差し込んでいる。
いつもなら綺麗だと思えるその明るささえ、今の咲良には、逃走ルートを容赦なく照らし出す嫌なスポットライトのように思えて、やけに焦りを煽られた。
「はぁ、はぁ……っ」
喉の奥がちりちりと熱い。
ようやく一階の薄暗い昇降口までたどり着いて、咲良は壁に背中を預け、少しだけ安堵の息をついた。
ここまで来れば、もう大丈夫。
自分のフロアから離れたし、一安心だ。
あとはいつも通りに靴を履き替えて、そのまま校門をくぐって家に帰ればいいだけだ。
そう思って、咲良は自分の出席番号が書かれた小さな靴ロッカーの前にしゃがみこんだ。
履いていた上靴をすっと脱ぎ、ローファーを取り出そうと、スチール製の扉に指をかけて開けようとした――まさに、そのときだった。
ガラッと激しい音を立てて教室のドアを開け、飛び込むなり、咲良は自分の机の上の荷物を猛烈な勢いでかき集め始めた。
開いたままの教科書をカバンに突っ込み、お気に入りのメイクポーチを放り入れ、ペンケースを押し込む。
火事の現場から家財道具を運び出す避難民のような、ものすごい速さで帰宅の準備を整えていく。
咲良のそのあまりにも無駄のない、神がかった手際の良さに、席で待っていた茉那はぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「え、ちょっと咲良!? どーしたの、一体!?」
「ちょっとね、深刻な体調不良なの! だからもう帰る!」
「いやいやいや、待って待って! 動きが素早すぎて残像が見えるんだけど! それ、絶対に体調悪い人の動きじゃなくない!?」
「いいえ、これが私の体調不良のときの動きなの! 特殊なの!」
「えええ、絶対違うくない!?」
もっともすぎるツッコミだったけれど、今の咲良には丁寧に解説をしてあげている余裕なんて一秒たりともなかった。
今すぐこの学校という名の包囲網から脱出しなければ、大変なことになる。
咲良の生存本能が、毛穴という毛穴から冷や汗を流しながらそう告げていた。
あのまま購買の廊下にいたら、あの金髪先輩に捕まるか、あるいは周囲の女子生徒たちの嫉妬の炎で消し炭にされるかの二択だった。
いや、もう既に状況は十分すぎるほど面倒くさい。
なぜか名前を知られている時点でかなり不利なのに、これ以上あのヤンキーのせいで学校中の注目を浴びるなんて、冗談じゃない。
お断りだ。
「とにかく、そういうわけだから、じゃあね!」
スクールバッグをガシッと肩にかけ、咲良はそれだけを一方的に言い残して教室を飛び出した。
「え、ちょっと咲良ー!? あとで絶対に詳しく教えてよー?! もー!」
背後から茉那の不満げな叫び声が追いかけてくる。
けれど、咲良決して止まらない。
一刻も早くこの敷地内から脱出するのだ。
一年の教室があるフロアを駆け抜け、階段を二段飛ばしで下り、廊下を曲がる。誰の視線にも捕まらないように、まるで見えない敵から逃れるスパイのように急いで昇降口へと向かった。
柔らかな昼の光が、階段の踊り場にある大きな窓から、白く眩しく差し込んでいる。
いつもなら綺麗だと思えるその明るささえ、今の咲良には、逃走ルートを容赦なく照らし出す嫌なスポットライトのように思えて、やけに焦りを煽られた。
「はぁ、はぁ……っ」
喉の奥がちりちりと熱い。
ようやく一階の薄暗い昇降口までたどり着いて、咲良は壁に背中を預け、少しだけ安堵の息をついた。
ここまで来れば、もう大丈夫。
自分のフロアから離れたし、一安心だ。
あとはいつも通りに靴を履き替えて、そのまま校門をくぐって家に帰ればいいだけだ。
そう思って、咲良は自分の出席番号が書かれた小さな靴ロッカーの前にしゃがみこんだ。
履いていた上靴をすっと脱ぎ、ローファーを取り出そうと、スチール製の扉に指をかけて開けようとした――まさに、そのときだった。