翡翠の一輪花【完】
EP.2 あなたの声
***
襖が開いた瞬間、宴会場のざわめきが一瞬だけ止まった。
視線が集まるのは分かっているのに、そのほとんどが遠く感じる。
………ただひとり、視界の奥にだけ意識が引っ張られた。
――葵。
その姿が視界に入った瞬間、息が止まった。
(……いる)
………分かっていたはずなのに、現実として認識するまでに少しだけ間があった。
ピタッと足が止まって、
胸の奥が、嫌なほど強く跳ねる。
───徐々に上げた視線が、ふと交差する。
目が合った瞬間、葵は一瞬だけ動きを止めたあと、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「翡翠────」
ぽつりと、つぶやかれた私の名前。
その声は、低く、どこか甘さを孕んでいた。
「……やっと、会えた」
続けられたその一言で、胸の奥が不意に熱くなる。
………責められると思っていたのに、違った。
………声の温度が、想像とまったく違う。
「ほんとに戻ってきたんだな」
私の存在を”確認”するんじゃなくて、”噛みしめる”みたいな言い方。
どこかほっとしたような、信じたくても信じきれなかったものがようやく形になったみたいな………そんな声。
「……うん」
………やっと出た声は、自分でも驚くほど小さかった。
「………5年だぞ」
少しだけ沈黙があって、それから葵は困ったように息を吐いた。
襖が開いた瞬間、宴会場のざわめきが一瞬だけ止まった。
視線が集まるのは分かっているのに、そのほとんどが遠く感じる。
………ただひとり、視界の奥にだけ意識が引っ張られた。
――葵。
その姿が視界に入った瞬間、息が止まった。
(……いる)
………分かっていたはずなのに、現実として認識するまでに少しだけ間があった。
ピタッと足が止まって、
胸の奥が、嫌なほど強く跳ねる。
───徐々に上げた視線が、ふと交差する。
目が合った瞬間、葵は一瞬だけ動きを止めたあと、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「翡翠────」
ぽつりと、つぶやかれた私の名前。
その声は、低く、どこか甘さを孕んでいた。
「……やっと、会えた」
続けられたその一言で、胸の奥が不意に熱くなる。
………責められると思っていたのに、違った。
………声の温度が、想像とまったく違う。
「ほんとに戻ってきたんだな」
私の存在を”確認”するんじゃなくて、”噛みしめる”みたいな言い方。
どこかほっとしたような、信じたくても信じきれなかったものがようやく形になったみたいな………そんな声。
「……うん」
………やっと出た声は、自分でも驚くほど小さかった。
「………5年だぞ」
少しだけ沈黙があって、それから葵は困ったように息を吐いた。