一途な社長に溺愛を教え込まれた夜
電話を置くたびに、手のひらにじっとりとした汗が溜まる。

断られることは怖くない。

今の私には、失うものなんて何もないのだから。

「御社のお力になります」

何度も繰り返すその台詞が、まるで自分自身に言い聞かせる呪文のように響く。

片っ端からかけた電話のうち、五社が「一度話を聞いてやってもいい」と言ってくれた。

たった五社。

でも、私にとっては、地獄の底から引き上げてもらったような五つの命綱だった。

資料を詰め込んだバッグを肩にかけ、私は意気揚々と社用車に向かった。

今日こそは、今日こそは絶対に決めてやる。

駐車場に差し掛かった時、愛車に乗り込もうとしていた私の視界に、背の高い人影が飛び込んできた。

「……社長?」

黒瀬慧だ。

朝からスーツを完璧に着こなし、その整った顔立ちは相変わらず冷ややかな彫刻のように美しい。

「外回りか」
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