捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~
第6章 才女は全てを見通す
32.動き出す情勢
その日のうちにレオールと別れて、私は様々な準備を進めることになった。
主に領内を守るための組織作りだ。
公国内から攻撃される可能性があった話だけど、私には重ねている信用がある。
まずは連絡網の整備や武器弾薬の備蓄から。実務を担うルーインへと反応を聞く。
「反発はありそう?」
「いいえ、地元民は賛同しております。ヴォルデの外で魔獣の襲来が増えているのは肌で感じているみたいで」
「危機感はあったというわけね」
ヴォルデでは魔獣の発生は増えていない。
しかしエベラルド領内では昨日、魔獣の襲来があった。
そのような話は帝国からでもヴォルデに届く。
そしてレオールとの会合から半月ほど経って、王都から私の元にひとつの書状が届いた。
『公国王ディルダの見舞いについて』
内容はこうだ。ヴォルデにて体調の優れない側妃コーデリアを見舞うため、ディルダが直々にヴォルデへ訪問して見舞う。
内容的には真っ当に読めるが、私の捉え方は全く違った。
「来たわね」
「……今になって兄上が?」
「恐らく見舞いというのは口実よ。兵を連れてきて動かそうと思えば、動かせる」
あれから半月、少数精鋭なら準備はできているだろう。
続けて王都にいるオルドスからも書状が来た。
『ヴォルデ巡幸の人数は通例に比べて数百人多くなる見込み。陛下はこれについて説明をしてくださいません』
『魔獣について陛下は不思議なほど気にされておらず、不気味なほど』
『魔獣の発生について、しばらくお気を付けください』
「正念場ね」
「……はい」
不安そうなルーインに私は微笑みかける。
「大丈夫よ。私もレオールもいるから」
レオールとの会合で話すべきことは話してきた。
王宮内の味方を通じて、相手の動きもある程度は掴めている。
その中にはメルダもいた。
王宮にずっといた彼女は近頃、頻繁に外へ出ている。
やはり彼女が諸々の動きのキーになっていた。
あとは私とレオールの知恵がディルダを上回っているかどうかだ。
◆◆◆
数日後、エベラルド領に魔獣が連続で襲来してきた。
明らかに異常なハイペースで。
レオールは冷静沈着に対処するよう関係各所に通達する。
「……ついにか」
レオールの手元にはコーデリアからの書状がある。
そこにはディルダがヴォルデに来る旨とその時がもっとも危険であると書いてあった。
レオールはコーデリアを信じて、公国に悟られないよう国境線に指揮所を移動していた。
見込みが外れれば別の場所で被害が出かねないリスキーな行為。
しかしレオールは賭けに勝った。
「申し上げます! またも北の国境線付近に魔獣が……! 今度はイエティのようです!」
「ふむ……その地の討伐隊は連戦だったな。中央からの部隊と交代させるように。少々の物損は許容する」
「ははっ!」
レオールは執務室から指令を飛ばす。公国側から連続して魔獣がやってきている。
イエティへの対処はコーデリアから教えてもらった通り。
その他にもヴォルデに現れる魔獣の情報を詳しく教えてもらっていた。
その知識を活かしてレオールが指揮をすれば恐れるものは何もない。
とはいえ、全くの無傷というわけでもなかった。
魔獣の発生に近すぎた村や畑は一時放棄せざるを得ない。死者こそ出ないが負傷者もゼロとはいかない。
「コーデリアがいなければ、遥かに被害は大きくなっていただろうな」
これほどの破壊行為を実行する男だ。
今でなくとも、いずれはどこかで帝国に災いをもたらしていただろう。
だが、ディルダが予算を投じた部署などがわかれば、動きも見える。
相手は舐め切っている……読まれていると思っていないから、雑なのだ。
魔獣の発生地点から逆算して、敵の拠点を暴き出す。
「やはりあの子爵令嬢の領内からか……」
コーデリアを目の敵にしていた、というのは帝国外交部からも伝わっている。
愚かなことだ。恐らくはディルダの指図で工作に従事しているのだろうが。
「俺も前線に赴く。ここからは速度が勝負だ」
拠点を公国内に置いているのは、帝国を恐れてのことだろう。
公国内からなら邪魔されないと考えているのだ。
だが、甘い。レオールは必要なことなら躊躇なく進む。
そもそもコーデリアからは警告され、承認を得ている……魔獣の襲来を防ぐためなら越境して公国に踏み込んでも問題にはならない。
レオールは愛馬を駆って、精鋭を伴って疾走した。
カリダードの黒杉を駆け抜け、公国の領内へ突入する。
一直線に公国のメルダの拠点へ突き進む。
「急げ!」
途中、公国の集落をいくつか通過したが……止められることもなく。
むしろ国境地帯ではレオールと帝国軍の名は知れ渡っていた。
さらに魔獣が発生している緊急事態なら、積極的に協力もする。
「コーデリア殿下から書状ももらっている」
あらかじめ用意されたコーデリアの書を見せれば、さらに話はスムーズに進んだ。
「怪しい者……でしたら、ここから少し南のなんだか綺麗な屋敷に最近おるようで」
「情報提供感謝する。近辺の魔獣は我らが掃討するから、安心するがいい」
「ありがとうございます! 最近、公国の兵はあまり動かない者で……」
こうもあっさり情報を渡してくれるとは、民心はすでに公国から離反しているようだ。
ただ、これは仕方ない。
王都から離れた民にとって、魔獣を討伐する者こそが必要なのだから。
ディルダがこの役割を全うしていれば、こうはならなかった。
帝国でも最精鋭のレオールの兵は、あっという間に目標地点へ到着する。
「……この代償は高くつくぞ」
前々のイエティについても、今回の襲来についても。
レオールがひとつだけコーデリアに言っていなかったことがある。
何であれ――魔獣討伐の責務から逃げるもの、悪用する者。
怪我を負って表舞台から去った両親の名誉のためにも。
これらの者をレオールは決して許しはしない。
「……あれが拠点か」
拠点は外壁を飾り、外からも目立つ小さな屋敷であった。
なぜそんな愚かなことをするのか。
ただ裏工作をする間にも虚栄心を満たさないと満足できないのか。
「突入する」
レオールは手勢を調え、馬から降りた。
「抵抗する者は構わん。斬り捨てろ」
ディルダの兵である黒服たちの抵抗は速やかに鎮圧されていった。
非正規でろくな訓練も受けていない類だ。
帝国の精鋭であるレオール軍の力を見せつけるだけで投降か逃亡する。
組織的な抵抗はほとんどできず、黒服は壊滅していった。
屋敷に踏み込んだレオールはすぐにその場のリーダーを見つけ出した。
やはり敵のリーダーは薄桃色の髪にけばけばしい服を着た女、メルダであった。
縄打たれたメルダはレオールの前に引き出された。
メルダはいまだに何が起きたのかわかっていないようであった。
「て、帝国がどうして……?」
「国境沿いで動いていれば、嫌でも目に付く」
殺気を放ちながらレオールはメルダを見据えた。
統率力も何もないメルダ。彼女だけでこれだけのことができたとは思えない。
裏にいるのはディルダだろうが、全てを知らずに動くには危険だ。
「知っていることを全て話してもらおう」
「……わ、わたしは何も……」
「そうか」
レオールは静かに言って、剣を抜いた。
命を奪う刃の輝きがメルダに突きつけられる。
「なら、お前の命でこの愚行を償ってもらうより他にない」
「っ!? ま、待ってよ! あたしに手を出したら――」
「ディルダが何としても復讐するのか、お前の為に?」
レオールは皮肉気に言い放った。
そんな訳はない、との意味にメルダがぎょっとする。
「……い、言ったら助けてくれるの?」
「いいや、駄目だ。お前は裁かれる」
「なっ……」
「お前の罪がいかほどのものか、俺は知らん。だが、罪に応じた罰が与えられるだろう」
「嫌よ! な、なんとかして!」
メルダはレオールの澄んだ緑の瞳を覗き込んで、ぞっとした。
彼の瞳にはメルダが映っていない。
本当にメルダに興味がなく、どうなっても良いと考えている。
そのような相手に対してどうするべきか。
メルダは媚びることしか知らなかった。
「なんでもするから! ね、ねぇ……お願い、この縄を解いて」
「ほう……何でも?」
「そ、そうよ! あたしは可愛いでしょ!? な、何でもしてあげるから!」
身体を揺すって女を強調するメルダ。
対してレオールは……ぐっとメルダの頬を掴んだ。
「俺にその手は通じない」
「や、やめて……っ」
力を込めるレオールにメルダが悲鳴を上げる。しかし、レオールは手を緩めなかった。
メルダがどうやってラッセリア公国の王宮に入り込んだか。
レオールは全てを知っているのだから。
「お前に望むことは何を企んでいたか、早急に吐くこと。それだけだ」
主に領内を守るための組織作りだ。
公国内から攻撃される可能性があった話だけど、私には重ねている信用がある。
まずは連絡網の整備や武器弾薬の備蓄から。実務を担うルーインへと反応を聞く。
「反発はありそう?」
「いいえ、地元民は賛同しております。ヴォルデの外で魔獣の襲来が増えているのは肌で感じているみたいで」
「危機感はあったというわけね」
ヴォルデでは魔獣の発生は増えていない。
しかしエベラルド領内では昨日、魔獣の襲来があった。
そのような話は帝国からでもヴォルデに届く。
そしてレオールとの会合から半月ほど経って、王都から私の元にひとつの書状が届いた。
『公国王ディルダの見舞いについて』
内容はこうだ。ヴォルデにて体調の優れない側妃コーデリアを見舞うため、ディルダが直々にヴォルデへ訪問して見舞う。
内容的には真っ当に読めるが、私の捉え方は全く違った。
「来たわね」
「……今になって兄上が?」
「恐らく見舞いというのは口実よ。兵を連れてきて動かそうと思えば、動かせる」
あれから半月、少数精鋭なら準備はできているだろう。
続けて王都にいるオルドスからも書状が来た。
『ヴォルデ巡幸の人数は通例に比べて数百人多くなる見込み。陛下はこれについて説明をしてくださいません』
『魔獣について陛下は不思議なほど気にされておらず、不気味なほど』
『魔獣の発生について、しばらくお気を付けください』
「正念場ね」
「……はい」
不安そうなルーインに私は微笑みかける。
「大丈夫よ。私もレオールもいるから」
レオールとの会合で話すべきことは話してきた。
王宮内の味方を通じて、相手の動きもある程度は掴めている。
その中にはメルダもいた。
王宮にずっといた彼女は近頃、頻繁に外へ出ている。
やはり彼女が諸々の動きのキーになっていた。
あとは私とレオールの知恵がディルダを上回っているかどうかだ。
◆◆◆
数日後、エベラルド領に魔獣が連続で襲来してきた。
明らかに異常なハイペースで。
レオールは冷静沈着に対処するよう関係各所に通達する。
「……ついにか」
レオールの手元にはコーデリアからの書状がある。
そこにはディルダがヴォルデに来る旨とその時がもっとも危険であると書いてあった。
レオールはコーデリアを信じて、公国に悟られないよう国境線に指揮所を移動していた。
見込みが外れれば別の場所で被害が出かねないリスキーな行為。
しかしレオールは賭けに勝った。
「申し上げます! またも北の国境線付近に魔獣が……! 今度はイエティのようです!」
「ふむ……その地の討伐隊は連戦だったな。中央からの部隊と交代させるように。少々の物損は許容する」
「ははっ!」
レオールは執務室から指令を飛ばす。公国側から連続して魔獣がやってきている。
イエティへの対処はコーデリアから教えてもらった通り。
その他にもヴォルデに現れる魔獣の情報を詳しく教えてもらっていた。
その知識を活かしてレオールが指揮をすれば恐れるものは何もない。
とはいえ、全くの無傷というわけでもなかった。
魔獣の発生に近すぎた村や畑は一時放棄せざるを得ない。死者こそ出ないが負傷者もゼロとはいかない。
「コーデリアがいなければ、遥かに被害は大きくなっていただろうな」
これほどの破壊行為を実行する男だ。
今でなくとも、いずれはどこかで帝国に災いをもたらしていただろう。
だが、ディルダが予算を投じた部署などがわかれば、動きも見える。
相手は舐め切っている……読まれていると思っていないから、雑なのだ。
魔獣の発生地点から逆算して、敵の拠点を暴き出す。
「やはりあの子爵令嬢の領内からか……」
コーデリアを目の敵にしていた、というのは帝国外交部からも伝わっている。
愚かなことだ。恐らくはディルダの指図で工作に従事しているのだろうが。
「俺も前線に赴く。ここからは速度が勝負だ」
拠点を公国内に置いているのは、帝国を恐れてのことだろう。
公国内からなら邪魔されないと考えているのだ。
だが、甘い。レオールは必要なことなら躊躇なく進む。
そもそもコーデリアからは警告され、承認を得ている……魔獣の襲来を防ぐためなら越境して公国に踏み込んでも問題にはならない。
レオールは愛馬を駆って、精鋭を伴って疾走した。
カリダードの黒杉を駆け抜け、公国の領内へ突入する。
一直線に公国のメルダの拠点へ突き進む。
「急げ!」
途中、公国の集落をいくつか通過したが……止められることもなく。
むしろ国境地帯ではレオールと帝国軍の名は知れ渡っていた。
さらに魔獣が発生している緊急事態なら、積極的に協力もする。
「コーデリア殿下から書状ももらっている」
あらかじめ用意されたコーデリアの書を見せれば、さらに話はスムーズに進んだ。
「怪しい者……でしたら、ここから少し南のなんだか綺麗な屋敷に最近おるようで」
「情報提供感謝する。近辺の魔獣は我らが掃討するから、安心するがいい」
「ありがとうございます! 最近、公国の兵はあまり動かない者で……」
こうもあっさり情報を渡してくれるとは、民心はすでに公国から離反しているようだ。
ただ、これは仕方ない。
王都から離れた民にとって、魔獣を討伐する者こそが必要なのだから。
ディルダがこの役割を全うしていれば、こうはならなかった。
帝国でも最精鋭のレオールの兵は、あっという間に目標地点へ到着する。
「……この代償は高くつくぞ」
前々のイエティについても、今回の襲来についても。
レオールがひとつだけコーデリアに言っていなかったことがある。
何であれ――魔獣討伐の責務から逃げるもの、悪用する者。
怪我を負って表舞台から去った両親の名誉のためにも。
これらの者をレオールは決して許しはしない。
「……あれが拠点か」
拠点は外壁を飾り、外からも目立つ小さな屋敷であった。
なぜそんな愚かなことをするのか。
ただ裏工作をする間にも虚栄心を満たさないと満足できないのか。
「突入する」
レオールは手勢を調え、馬から降りた。
「抵抗する者は構わん。斬り捨てろ」
ディルダの兵である黒服たちの抵抗は速やかに鎮圧されていった。
非正規でろくな訓練も受けていない類だ。
帝国の精鋭であるレオール軍の力を見せつけるだけで投降か逃亡する。
組織的な抵抗はほとんどできず、黒服は壊滅していった。
屋敷に踏み込んだレオールはすぐにその場のリーダーを見つけ出した。
やはり敵のリーダーは薄桃色の髪にけばけばしい服を着た女、メルダであった。
縄打たれたメルダはレオールの前に引き出された。
メルダはいまだに何が起きたのかわかっていないようであった。
「て、帝国がどうして……?」
「国境沿いで動いていれば、嫌でも目に付く」
殺気を放ちながらレオールはメルダを見据えた。
統率力も何もないメルダ。彼女だけでこれだけのことができたとは思えない。
裏にいるのはディルダだろうが、全てを知らずに動くには危険だ。
「知っていることを全て話してもらおう」
「……わ、わたしは何も……」
「そうか」
レオールは静かに言って、剣を抜いた。
命を奪う刃の輝きがメルダに突きつけられる。
「なら、お前の命でこの愚行を償ってもらうより他にない」
「っ!? ま、待ってよ! あたしに手を出したら――」
「ディルダが何としても復讐するのか、お前の為に?」
レオールは皮肉気に言い放った。
そんな訳はない、との意味にメルダがぎょっとする。
「……い、言ったら助けてくれるの?」
「いいや、駄目だ。お前は裁かれる」
「なっ……」
「お前の罪がいかほどのものか、俺は知らん。だが、罪に応じた罰が与えられるだろう」
「嫌よ! な、なんとかして!」
メルダはレオールの澄んだ緑の瞳を覗き込んで、ぞっとした。
彼の瞳にはメルダが映っていない。
本当にメルダに興味がなく、どうなっても良いと考えている。
そのような相手に対してどうするべきか。
メルダは媚びることしか知らなかった。
「なんでもするから! ね、ねぇ……お願い、この縄を解いて」
「ほう……何でも?」
「そ、そうよ! あたしは可愛いでしょ!? な、何でもしてあげるから!」
身体を揺すって女を強調するメルダ。
対してレオールは……ぐっとメルダの頬を掴んだ。
「俺にその手は通じない」
「や、やめて……っ」
力を込めるレオールにメルダが悲鳴を上げる。しかし、レオールは手を緩めなかった。
メルダがどうやってラッセリア公国の王宮に入り込んだか。
レオールは全てを知っているのだから。
「お前に望むことは何を企んでいたか、早急に吐くこと。それだけだ」