捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~

33.暗君の考え

 一方、ディルダは王都から悠々と出立してヴォルデへと向かっていった。
 これまでの巡幸にはない大人数であり、列車を借り切って向かう始末だ。
(なんという異様な集団……)
 ディルダに同行するオルドスは寒気を抑えられなかった。
 書類上はディルダの身の回りの世話、コーデリアの治療のため人数が膨れ上がったという。
 それだけで数百人も増えるわけがないし、何より医者はディルダの侍医しかいなかった。
 しかも増えた人間はオルドスもよく知らない部署――正確にはコーデリアとの会合で浮かび上がってきた部署の人間ばかりだ。
(つまり完全に陛下の手の者ばかりということ)
 本当の本当に陛下は実力行使に出るつもりなのか。
 いくつもの兆候がそれを示していても、オルドスとしては信じたくはなかった。
 列車の中でディルダとともに執務を片付ける……対面のディルダはいつになく上機嫌であった。それが不気味だ。コーデリアを見舞う態度には見えない。
「陛下、差し出がましいながらひとつ宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「何か慶事がありましたでしょうか。ご機嫌麗しく見えますもので……」
「ああ、お前には言っておくか。実はな、今回の巡行はコーデリアを見舞うためじゃない。強制的に連れ戻すための巡行だ」
「……っ!!」
 オルドスが顔色を変えると、ディルダが面白そうに顔を歪めた。
「驚いたか? コーデリアもそうだろうな。アイツの好きにさせるのは、もう止めた」
「ではこの列車の人員は……」
「俺の手の者だ。コーデリアの目をかいくぐる為に苦労したぞ」
 衝撃的なセリフの数々にオルドスは言葉を継げない。
 だが、同時にオルドスはわずかに安堵もしていた――ディルダは愚かだ。
 コーデリアとレオールはとうの昔に準備を整え、予測して手を打っている。
 ディルダやオルドス程度の思惑を飛び越え、遥かに広い視野で動いているのだ。それをディルダは少しも認識していない。
 王都から出てヴォルデへ向かう途中、列車は少し停車する。
 その間に伝令が行き交う……ディルダが事前に連絡網を整備していたのだ。
 駅に到着するごとに最新の情報を手に入れるために。
 ディルダの顔色が変わったのは、とある報告書を読んだ時だった。
「……なんだと!」
「な、何か?」
「くそっ、レオールめ……っ」
 ディルダは唇を噛み、窓の外を睨みつける。その様子から帝国への何かが不首尾に終わったのだろう。
 むしろオルドスとしては安心する話だが。
「北部から魔獣をエベラルド領へ追いやるように言ったのだが、用意のいいことだ。ほぼ即座に討伐し終えたらしい」
「…………」
 事もなげに言い放つディルダに対して、オルドスは嫌悪感が高まるのを必死に隠した。
 ディルダは討伐費用を削減するだけでなく、魔獣そのものを他国へ押し付けようとしていたのだ。それがどれほど危険なことか、この暗君にはわからないのだろう。
「やはり帝国をどうこうするのはまだ無理か」
「帝国へ魔獣を追いやる意図……というのは?」
「帝国もその他の国も俺を軽く見ている。魔獣を送り込んで困らせれば、公国の価値に気付くだろう」
 それは逆転の、してはいけない発想だった。
 そもそも遊ぶ金欲しさに必要な討伐費用を削っているのだ。
さらには契約済み魔獣素材も用意できていない。
 他国が文句を言うのは当たり前の話で、それを責任転嫁して困らせる材料にするとは。
「もし露見したら大変なことに……!」
「俺がそんなヘマをすると思うか? ああ? お前も喋れまい」
 ディルダの細まった瞳孔が怯えたオルドスを映し出す。
 それは半分真実だった。公国はラッセリア王家の血筋があってのもの。
 魔獣が数多く住まう公国で政変を起こそうものなら――それこそ大惨事だ。
 オルドスにそのような覚悟はなかった。少なくとも自分からディルダを引きずり下ろすのはできそうにない。
「俺は生まれた時から王だ。だからわかる。お前は俺の意見に反対しながらも、俺の命令には逆らわない」
「……滅相もございません」
 オルドスは声を振り絞るので精一杯だった。ディルダのそのような勘は優れている。
 だが、同時に――コーデリアを外したのはディルダにとって失策ではなかったか。
 コーデリアはディルダに反対して、公国の為に動ける人間だ。しかも国と民の為なら何でも考えて実行する。
 側妃になってからディルダはコーデリアを見ていない。どう変わったか知らないのだ。
「帝国は大きくなりすぎた。俺の楽しみを奪おうと考えている……。だから俺もやれることはやるしかない」
 ディルダがワイングラスを傾けながら、笑う。
 魔獣を送り込んで少しの苦悩も後悔もないようだった。
「だが、朗報もある。メルダからだが……まだ充分に工作は可能なようだ」
「メルダ様が……?」
 コーデリアが信頼を寄せるエベラルド辺境伯が手を抜くとは思えないが。
 伝え聞くエベラルドの兵とコーデリアの知略なら実行部隊を捕らえることも……いや、事態は切迫している。何が起きていても不思議ではない。
 そしてもうディルダに利することを進言するほどの忠誠心はオルドスになかった。
「ヴォルデで騒乱を起こせば、帝国を非常に刺激いたします。どうか今からでもご再考を」
 すでにコーデリアは動いているし、もはや止められるような事態ではない。しかし言わなければならない。
 まだ引き返せる。一線は越えたが、過ちを認めるのに遅すぎはしない。
 必死の想いを伝えるオルドスに対し、ディルダはつまらなさそうに手を振った。
「もうタクトは振られた。次に王都に戻る時はコーデリアを捕らえていなければならん」
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