捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~
34.ディルダ、来たる
今日、ディルダがヴォルデに巡幸してくる。
その日、私は屋敷の中でじっと事の推移を見守っていた。
空は晴々としているが、私の気持ちは不安でいっぱいだった。
「レオール様は問題ないと言うけれど……」
国境に配備した連絡員からは魔獣の発生がエベラルド領で相次いでいると報告が来ている。
ただ、レオールは自分も前線に出て解決しているとも。
それ以上のことも聞いているが、どうなるかは確実には見通せない。
「レオール様から兵も預かっておりますし、余裕があるのでしょう」
「……そうね」
今、屋敷には十数名ほどだがレオールから派遣された帝国兵がいる。
誰もが精鋭という話だが、これは最終手段に等しい。ディルダが帝国を巻き込むのを恐れてくれればいいのだけれど。
それから日中、早馬で報告が相次ぐ。帝国の国境は魔獣によって攻撃され続けているとか。
さすがに帝国軍もかかりきりになっているらしい……。
「用意が良すぎるわね」
やがてヴォルデの駅にディルダを乗せた列車が到着したと連絡があった。
列車を丸ごと貸し切り、数百人を従えている……ディルダは本気だ。
ヴォルデで一騒動起こすつもりなのだ。
「…………」
「どういたしますか?」
「……駅まで出向きましょう」
いくつかのプランの中には屋敷に立て籠もるのもあった。
しかしヴォルデの生命線は鉱業の輸出と駅だ。
そのふたつを制圧されたらヴォルデの民が大混乱に陥る。
逃亡もひとつの手だが、病気を理由にしている以上それでは私の道理が通らない。
ディルダは嬉々としてさらなる実力行使に出るだろう。
屋敷の人間を連れて馬車の列を作り、駅まで――その途中で騎乗した一団に遭遇する。
騎乗した一団は私の馬車を停止させ、取り囲んだ。
黒服と見覚えのない制服の連中だ。ただ、勲章から公国の人間であることはわかった。
「コーデリア殿下とお見受けする。ご同行願いましょう」
騎乗したまま威圧的に呼びかけてきたのは、酷薄な表情を浮かべた青年だった。
同乗しているルーインが非礼を責めるため立ち上がろうとするが、私は手を軽く上げてそれを制する。
わかっていてこの男はやっている。
「念の為に伺うけれど、あなたは?」
「奥森林管理課の者だ。これで理解出来るだろう」
ああ、なるほど。ディルダが選抜した私兵か。
「従わなければ……」
「その必要はありません」
私は馬車の中から気丈に言い放った。
「私が屋敷から出向いたのは、余計な騒動を起こさないため。それと帝国から来られた方々を後ろの馬車に乗せております。失礼のないように」
「帝国の人間……をだと?」
男が少しのけぞった。どうやら私が帝国の人間まで連れてくるのは予想外だったようだ。
「ええ、知っての通り国境沿いの領主には日常的な連絡や交易が任されております。帝国との密な連絡のため、人員を置いてくださるのは当然でしょう?」
「……それは、そうだが……」
明らかに男は考えあぐねているようだった。連れて行くべきか、否か。
「無礼な! 騎乗したまま殿下に拝謁など――!!」
雷のような声が男の後ろから飛んでくる。見知った声だ。
すぐに一団を割って、馬に乗ったオルドスが現れた。
「オルドス閣下、あなたも来ていたのね」
「大変申し訳ございません! この愚か者め! 下がれ!」
オルドスは奥森林管理課の男を一喝して、下がらせた。
悔しそうな顔を浮かべ、青年はオルドスに従う。
ルーインがこそっと囁いた。
「意外な一面ですね」
「そうでなくては一国の宰相は担えないわ」
オルドスは馬から降り、コーデリアの馬車の横で膝をついた。
「大変失礼いたしました。喫緊の事態とはいえ、この者は拝謁に栄誉に浴しながら礼も弁えず――必ず処罰いたします」
オルドスの後ろで男がぎょっとしているが、ちょっといい気味だ。
普段ならそれには及ばないと言うところだけれど、今は体面がある。
悪いがオルドスに乗っかろう。
「オルドス閣下、あなたにお任せいたします」
「はっ……ありがたき幸せ」
そこでオルドスは言葉を切って、ちらと私の馬車の一団を見やった。
「御言葉を鑑みるに、帝国の方々もご同席されているとのこと……」
「エベラルド辺境伯はご多忙な御方。されど帝国とは密にやり取りをさせて頂かなくては……ということで、エベラルド辺境伯が派遣してくれた方々です。日常的なことを円滑に進めるため、わざわざね」
「確かに、そのほうが何かと政務は捗りましょう。要は臨時の大使員としておられると。ご同行願うしかありませんが、身を改めさせて頂いてもよろしいですか?」
「くれぐれも失礼のないように」
オルドスへ申し伝え、彼とその側近が帝国の人の身体検査を行う。
とはいえそれは形式的なもので、すぐに終わった。
「では、申し訳ございませんがご同行願いましょう――陛下がお待ちです」
オルドスを脇に、私たちの馬車がゆっくりと進む。
周囲をがっちり囲まれているため、どうやっても逃げられない。
この異様な行列に、道々で騒ぎが起きているようだ。
まぁ、大通りを進んでいる。話題にならないわけがなかった。
ヴォルデの住民たちが続々と行列についてくる……。
妨害もしていない住民を追い返すわけにもいかず、人の群れはどんどん多くなる。
やがて太陽が頂上に輝く正午に、馬車が止まる。
尖塔と蒸気、熱……ミスリルの精錬施設の前にディルダがいた。
その日、私は屋敷の中でじっと事の推移を見守っていた。
空は晴々としているが、私の気持ちは不安でいっぱいだった。
「レオール様は問題ないと言うけれど……」
国境に配備した連絡員からは魔獣の発生がエベラルド領で相次いでいると報告が来ている。
ただ、レオールは自分も前線に出て解決しているとも。
それ以上のことも聞いているが、どうなるかは確実には見通せない。
「レオール様から兵も預かっておりますし、余裕があるのでしょう」
「……そうね」
今、屋敷には十数名ほどだがレオールから派遣された帝国兵がいる。
誰もが精鋭という話だが、これは最終手段に等しい。ディルダが帝国を巻き込むのを恐れてくれればいいのだけれど。
それから日中、早馬で報告が相次ぐ。帝国の国境は魔獣によって攻撃され続けているとか。
さすがに帝国軍もかかりきりになっているらしい……。
「用意が良すぎるわね」
やがてヴォルデの駅にディルダを乗せた列車が到着したと連絡があった。
列車を丸ごと貸し切り、数百人を従えている……ディルダは本気だ。
ヴォルデで一騒動起こすつもりなのだ。
「…………」
「どういたしますか?」
「……駅まで出向きましょう」
いくつかのプランの中には屋敷に立て籠もるのもあった。
しかしヴォルデの生命線は鉱業の輸出と駅だ。
そのふたつを制圧されたらヴォルデの民が大混乱に陥る。
逃亡もひとつの手だが、病気を理由にしている以上それでは私の道理が通らない。
ディルダは嬉々としてさらなる実力行使に出るだろう。
屋敷の人間を連れて馬車の列を作り、駅まで――その途中で騎乗した一団に遭遇する。
騎乗した一団は私の馬車を停止させ、取り囲んだ。
黒服と見覚えのない制服の連中だ。ただ、勲章から公国の人間であることはわかった。
「コーデリア殿下とお見受けする。ご同行願いましょう」
騎乗したまま威圧的に呼びかけてきたのは、酷薄な表情を浮かべた青年だった。
同乗しているルーインが非礼を責めるため立ち上がろうとするが、私は手を軽く上げてそれを制する。
わかっていてこの男はやっている。
「念の為に伺うけれど、あなたは?」
「奥森林管理課の者だ。これで理解出来るだろう」
ああ、なるほど。ディルダが選抜した私兵か。
「従わなければ……」
「その必要はありません」
私は馬車の中から気丈に言い放った。
「私が屋敷から出向いたのは、余計な騒動を起こさないため。それと帝国から来られた方々を後ろの馬車に乗せております。失礼のないように」
「帝国の人間……をだと?」
男が少しのけぞった。どうやら私が帝国の人間まで連れてくるのは予想外だったようだ。
「ええ、知っての通り国境沿いの領主には日常的な連絡や交易が任されております。帝国との密な連絡のため、人員を置いてくださるのは当然でしょう?」
「……それは、そうだが……」
明らかに男は考えあぐねているようだった。連れて行くべきか、否か。
「無礼な! 騎乗したまま殿下に拝謁など――!!」
雷のような声が男の後ろから飛んでくる。見知った声だ。
すぐに一団を割って、馬に乗ったオルドスが現れた。
「オルドス閣下、あなたも来ていたのね」
「大変申し訳ございません! この愚か者め! 下がれ!」
オルドスは奥森林管理課の男を一喝して、下がらせた。
悔しそうな顔を浮かべ、青年はオルドスに従う。
ルーインがこそっと囁いた。
「意外な一面ですね」
「そうでなくては一国の宰相は担えないわ」
オルドスは馬から降り、コーデリアの馬車の横で膝をついた。
「大変失礼いたしました。喫緊の事態とはいえ、この者は拝謁に栄誉に浴しながら礼も弁えず――必ず処罰いたします」
オルドスの後ろで男がぎょっとしているが、ちょっといい気味だ。
普段ならそれには及ばないと言うところだけれど、今は体面がある。
悪いがオルドスに乗っかろう。
「オルドス閣下、あなたにお任せいたします」
「はっ……ありがたき幸せ」
そこでオルドスは言葉を切って、ちらと私の馬車の一団を見やった。
「御言葉を鑑みるに、帝国の方々もご同席されているとのこと……」
「エベラルド辺境伯はご多忙な御方。されど帝国とは密にやり取りをさせて頂かなくては……ということで、エベラルド辺境伯が派遣してくれた方々です。日常的なことを円滑に進めるため、わざわざね」
「確かに、そのほうが何かと政務は捗りましょう。要は臨時の大使員としておられると。ご同行願うしかありませんが、身を改めさせて頂いてもよろしいですか?」
「くれぐれも失礼のないように」
オルドスへ申し伝え、彼とその側近が帝国の人の身体検査を行う。
とはいえそれは形式的なもので、すぐに終わった。
「では、申し訳ございませんがご同行願いましょう――陛下がお待ちです」
オルドスを脇に、私たちの馬車がゆっくりと進む。
周囲をがっちり囲まれているため、どうやっても逃げられない。
この異様な行列に、道々で騒ぎが起きているようだ。
まぁ、大通りを進んでいる。話題にならないわけがなかった。
ヴォルデの住民たちが続々と行列についてくる……。
妨害もしていない住民を追い返すわけにもいかず、人の群れはどんどん多くなる。
やがて太陽が頂上に輝く正午に、馬車が止まる。
尖塔と蒸気、熱……ミスリルの精錬施設の前にディルダがいた。