捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~

35.不正の証拠

 私とルーインは促されて馬車から降りる。
「いい施設だな。かなり本格的じゃないか」
「……ご機嫌麗しく、陛下」
「コーデリア、久しいな。病気と聞いていたが、そうは見えない」
 ディルダはいつになく上機嫌だった。自分の計画が上手く行っていると思い込んでいる。
「さぁ、ヴォルデの領主は終わりだ。王都に帰るぞ。お前向けの仕事がいくつもある」
 ヴォルデの住民が固唾を飲んで見守っていた。
 精錬施設の窯と金属が鳴らす音が遠くに聞こえる。
 ディルダは私に負けを認めさせたいようだが、私は負けず嫌いだ。
 背を伸ばし、私ははっきりと言い切った。
「お断りいたします」
「なっ、はぁっ……!?」
 ディルダさえも面食い、周囲も唖然とする。
「私を側妃にしたことに、私はいまだ納得しておりません。これまでの行状を反省なされ、良き王となること。それがなされない限り、王都には戻りません」
「……調子に乗るなよ。お前は俺の言う通りにすればいいんだ!」
 ディルダが苛立ち、手を上げた。同時に黒服たちがざざっと前に出てくる。明らかに実力行使の構えだ。
「そもそも公国がおかしくなったのは、お前がいなくなったからだ。帝国からもせっつかれ……金もない!」
「私を王都から遠ざけたのは、陛下では?」
「うるさい! 貴様はいつもルールや前例を持ち出す。そんなことが王に関係あるものか!」
「信じられません。王であれば国の全てに責任を持たなくては。まして公国は魔獣が跋扈する国でございます」
「ふん、それがどうした?」
 ディルダは状況に勝ち誇っていた。
 配下が充分にいて、私もすでに手の届くところにいる。
 だからこそ口を滑らせる可能性は十分にあった。
「魔獣の討伐数について、近隣諸国から懸念が出ているのでしょう。魔獣を討伐しないのは王の責務を果たしていることになりません」
「公国は生まれ変わるのだ……俺の元でな。責務になんぞ縛られん。魔獣で困るなら、困ればいい。むしろ俺と公国のありがたみを思い出すだろう」
「近隣諸国の苦境は意に介さないと」
「くどい! 魔獣など知ったことか!」
「ほう、そうか。聞き捨てならないな」
 屋敷からついてきた帝国の方が乗っている馬車。
 そこから凛とした低い声が響いて、ひとりの男が馬車から降りてきた。
 極めて印象に残りづらい、仮面を被ったかのような男だ。
 そのまま男は私へと歩み寄る。
 見知らぬ男が突然現れ、ディルダは大いに気分を害したようだ。
「帝国の人間が……何だ、貴様は!」
「ラッセリア公国王ディルダ、貴様を拘束する」
 男が魔術を解いて、真の顔を見せる。
 緑の髪が空に広がり、鮮やかに剣を携えてレオールが仁王立ちしていた。
 私にしたのと同様、光の魔術による偽装だ。
「……っ! 貴様はレオール・エベラルド! なぜお前が……!」
「簡単だ。陽動の裏をついただけ」
 そう、私とレオールはあの日の会合から様々なシミュレーションを重ねた。
 帝国からの干渉を跳ねのけるのがディルダの勝利には不可欠。
 レオールに介入させないために、国境線沿いで騒乱が起きるよう仕向けると思っていた。
 困難だったが、レオールは国境沿いの騒乱を即座に鎮圧したのだ。
「馬鹿な! これは公国内の問題だぞ! 帝国が介入する道理なぞあるか?」
「そうか?」
 レオールが懐から書状を取り出す。それはこれまでに私が押さえたのも含め、ディルダが発行した裏の命令書だ。
「この書状に見覚えは? 貴国が近年になって設立した奥森林管理課のもののようだが。書状によるとずいぶんと工作をしていたようだな。帝国に対する背信はもちろんだが、これらの命令は公国内でも支持は得られまい」
「し、知らん!」
「そうか……なら、この人間は?」
 レオールが群衆に目配せする。すると群衆が割れて、ひとりの女性がふたりの男に縄で打たれて連行させられてきた。
 ボロボロの貴族服と薄桃色のボリュームある髪色。
 整っていただろう髪もくしゃくしゃであった。
「離してよ……っ!」
「メルダ……」
 話には聞いていたが、彼女も哀れなものだ。
 結局、彼女の行動は何もかも私たちの手のひらの上だった。
 メルダが私を見て、びくりと背筋を震わせる。
 彼女の心はもう折れているみたいだ。
「この者は魔獣を不用意に刺激する不法行為を行なっていたため、捕縛した。これは国際問題にもなる重大な犯罪行為だ」
 メルダは私への対抗心で前に出てきた。
 でもヴォルデから離れたところにいたのは、私を恐れたからだろう。
 だから私の目の届かないところでディルダのために裏工作をしていた……。
 にしてもなんという馬鹿さというか、レオールはとてつもなく優秀だ。
 私からの情報があれば、黒服程度を壊滅させるなんて容易だったろう。
「頭目のこの者はディルダ王の寵愛を受けた貴族令嬢、メルダと思われるが――これほど重大な地位にいるものが関わっていたとあれば、公国ぐるみの陰謀だと受け止めざるを得ん」
「ちっ……!」
 ディルダが舌打ちしてメルダに憎悪の目線を向ける。
 メルダがひぃっと悲鳴を上げるが、もう手遅れだ。
「その他にも不法行為を試みた者はほぼ捕らえた。全容解明にもさほど時間はかかるまい。それでもまだ自らの責任を認めないつもりか?」
 レオールの厳しい言葉にディルダが首を振る。
 私の思った以上にレオールは自身の力で成果を出していた。
 さすがの手際というべきか……。いや、これがレオールだ。
 私が知らせたことも含め、警戒すべきポイントをしっかり押さえていた。
 だからメルダもディルダの兵もすぐに捕らえることができたのだ。
「それで勝ったつもりか!」
 ディルダが叫び、レオールを睨みつける。
「貴様は単なる不法入国者だ! 帝国の辺境伯相手でも、俺がここで引き下がるか!」
「ほう……ならばどうするつもりだ」
「者ども、この場にいる全員を捕らえよ!」
 それは究極の実力行使だった。帝国辺境伯のレオールを傷付けるなんてしたら、帝国との関係は修復不可能になる。
 だが、ここで負けを認めるくらいなら……ということか。
「さぁ、レオールとコーデリアを捕らえた者は百倍の報酬を出すぞ! 行け、戦え!」
 ディルダの激に兵の目の色が変わる。
 ここでレオールに従えば破滅。もし私たちを捕らえれば百倍か。
 あまりに短絡的で情けなくなる。
 レオールがちらと私に振り返った。
「コーデリア」
「……はい」
「少し手荒くしても構わないな」
「ご随意に、レオール様」
 私の出来ることはほぼ終わった。
 殺気立つ場にレオールが悠然と進む。剣は腰に携えたまま。
 一見すると、危険極まりない。ディルダの手の者の中には短弓や鉤縄を振り回す者もいた。
 でも私は少しも心配していなかった。
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