捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~
36.切り札と切り札
レオールは強い。途轍もなく。
「かかれ!」
「帝国の雷光、その由来を知るがいい」
皆が動き出す一瞬、レオールの姿が消えた。
レオールの魔術は雷と光だ。単に手から雷を放つこともできるのだが、レオールの本気はそれではない。
雷をまとうと何倍も高速で動ける。
目だけは良い私にはレオールの動きが見えていた。
短弓から放たれた矢じりのない弓。刺さりはしないが、当たれば強烈な衝撃を生み出す。
それらの弓を紙一重で避ける。そして手から光を放つ――触れた人間を動けなくする雷撃だ。
空を切り裂く雷光がディルダの兵に直撃していく。
「ぐあああっ!?」
避けることもできず、ディルダの兵が悶絶して行動不能になる。
さらに向かってくる五個の鉤縄もあるものは身体を傾け、あるものは剣で斬り落とす。
もちろん反撃も忘れない。レオールが縄に触れると、縄を伝って雷撃が伝わっていく。
「あががっ!!」
「なっ……!?」
ディルダが思ってもいなかった光景に驚愕する。
これがレオールだ。雷光をまとい、一人で百人に匹敵する。
レオールはそのままディルダの兵を蹴散らして突き進んだ。
「ぐっ……! コーデリアだ! あやつをまず捕まえろ!」
「そうはさせませんよ!」
私の後方にいたディルダの兵は剣を構えるルーインによって動けなくなっていた。
まぁ、すでに数人の不埒者が叩きのめされているという意味だけど。
ルーインは穏やかで可愛い顔をしながら、武芸も超一流だ。ごろつき紛いのディルダの兵に遅れを取るわけがない。
「ううっ……!」
「コーデリア様! ヴォルデの民もあなた様のお味方でございますぞ!」
輪の外からトルドの声がしたと思ったら、ヴォルデの群衆が後ろからディルダの兵へと襲いかかっていた。
無害な民衆だと思っていたのが敵に回り、ディルダの兵全体が大混乱に陥る。
彼らにとっては、レオールと私にばかり注目して完全な不意打ちだ。
すぐに数十人が叩きのめされる。さらに他の帝国の人間もレオールの選んだ精鋭――躊躇なく向かってくるディルダの兵を蹴散らしていた。
ディルダ側の損害はあっという間に膨れ上がっていく。
レオールがトルドとその仲間に呼びかけた。
「ヴォルデの民よ! その義心を嬉しく思うぞ! 愚かな王を打ち倒す機会は目前だ!」
「おおっ! 我らの正義を見せてやるのだ!!」
レオールの言葉にヴォルデの民は歓声を上げながら乱闘に殺到し、対してディルダの兵は……もうろくな組織的抵抗ができない有様だ。
私は勝利を確信しながら、冷めた目でディルダを見据えていた。
数と装備の上ではまだこちらが不利だったはず。
的確な指示と士気を保てば、私たちが負けることも充分にあり得た。
そもそもトルドたちヴォルデの民の参戦は計算外だったのだし。
でも内にはレオールと帝国兵、ルーインと私の護衛。外には熱狂したヴォルデの民衆。
緊迫して目まぐるしく動く事態にディルダは何もできなかった。
人を率いる才能が絶望的に欠けているのだ。
「駄目だ! 逃げろー!!」
「こ、降伏するっ! 武器も捨てる!!」
ディルダの兵が戦意を失い、勝手に逃走したり武器を捨てて戦うのを放棄する。
一度生み出された流れは止められない。敗北の予感は連鎖反応を起こし、伝播していく。
レオールが戦場全体を見渡す。
「脆いな。所詮は金で集めただけの非正規兵か」
「後ろを見せるなぁ! 戦えっ!」
「それは無理だ。こいつらは貴様の威光を盾に、旨い汁を吸おうとしていただけ……。誇りもなければ技量もない。王を守ることさえできん」
迫るレオールに、ディルダがみっともなく背を見せる。
「さらに掲げる王が暗君であれば、当然の帰結だ」
「ま、まだだ……!」
「……陛下」
ディルダの前に現れたのはオルドスだった。
ディルダが両腕を上げて戦場を指し示す。
「お、おお! オルドス、俺の忠臣! この不届き者たちを何とかしろ! 俺を勝たせろ!」
「無理でございます」
「は?」
「私めは何度も陛下をお止めいたしました。その結果がただいまの光景なのです」
「じゃあ、どうしろと!?」
「潔く降伏なさるのが良いかと」
「馬鹿めが! 俺はどうなる!」
「存じ上げません」
オルドスがはっきりと言い切ったのを聞いて、私はふふっと笑ってしまった。
「宰相としてできるのは、あとひとつだけでございます」
「な、何をするつもりだ?」
「公国の者どもよ、戦闘をやめて降伏せよ!」
オルドスのよく通る声が戦場に響き渡る。それはディルダの兵の士気の最後の一欠片を打ち砕くのに充分だった。
宰相からそう呼びかけられてまで戦える人間は、ディルダの下にはいない。
潮が引いていくように戦いが収束していく。
「な、なにを勝手に! 貴様ぁっ!」
「もう終わりにいたしましょう、陛下」
「こ、こいつ……っ!」
ディルダがオルドスの襟に掴みかかろうとするが、さらに背を向けて走り出した。
配下の兵を蹴飛ばし、ディルダが走る。
精錬施設のほうだ。逃げ切れるわけもないのに……。
レオールがディルダを追う。でも全速力じゃない。
ディルダのさらなる失策を待っているのだ。
「はぁ、はぁ……! どけぇっ!」
惨めなディルダが精錬施設の尖塔に辿り着く。
それからディルダは懐から鈴を取り出した。
「ふははっ、どうして俺がここを会見の場にしたか――そこまではわからなかったか!」
「……そうだな」
レオールは静かだ。ディルダの目は血走り、決死の形相だった。
「見ろ!」
ディルダが手製の鈴を取り出す。それは不格好で、いかにも素人が作ったような……でも
凄く嫌な予感がする。大気が振動して、何かが揺れ動くような。
「これが最後の機会だ。投降しろ」
「ほざけ! わかっているんだ、このヴォルデの下には魔獣が眠っている!」
ディルダが鈴を揺り動かそうとする。嫌な予感はますます増大していった。
この場にいる全員が只事ではない雰囲気を感じて、踏み止まる。
「さぁ、この場にいる全員を始末しろ! 公国王に跪かせるだ!」
ついにディルダが鈴を鳴らす。
鈴の音は奇妙に甲高く響いた。大地と大気の何かが蠢いている。
だが、私は慌てなかった。
手元から私も切り札を取り出す。それは小さな鈴だった。
ディルダの作った鈴、それを手に入れて急ぎ改造したものだった。
「無駄です、陛下」
「かかれ!」
「帝国の雷光、その由来を知るがいい」
皆が動き出す一瞬、レオールの姿が消えた。
レオールの魔術は雷と光だ。単に手から雷を放つこともできるのだが、レオールの本気はそれではない。
雷をまとうと何倍も高速で動ける。
目だけは良い私にはレオールの動きが見えていた。
短弓から放たれた矢じりのない弓。刺さりはしないが、当たれば強烈な衝撃を生み出す。
それらの弓を紙一重で避ける。そして手から光を放つ――触れた人間を動けなくする雷撃だ。
空を切り裂く雷光がディルダの兵に直撃していく。
「ぐあああっ!?」
避けることもできず、ディルダの兵が悶絶して行動不能になる。
さらに向かってくる五個の鉤縄もあるものは身体を傾け、あるものは剣で斬り落とす。
もちろん反撃も忘れない。レオールが縄に触れると、縄を伝って雷撃が伝わっていく。
「あががっ!!」
「なっ……!?」
ディルダが思ってもいなかった光景に驚愕する。
これがレオールだ。雷光をまとい、一人で百人に匹敵する。
レオールはそのままディルダの兵を蹴散らして突き進んだ。
「ぐっ……! コーデリアだ! あやつをまず捕まえろ!」
「そうはさせませんよ!」
私の後方にいたディルダの兵は剣を構えるルーインによって動けなくなっていた。
まぁ、すでに数人の不埒者が叩きのめされているという意味だけど。
ルーインは穏やかで可愛い顔をしながら、武芸も超一流だ。ごろつき紛いのディルダの兵に遅れを取るわけがない。
「ううっ……!」
「コーデリア様! ヴォルデの民もあなた様のお味方でございますぞ!」
輪の外からトルドの声がしたと思ったら、ヴォルデの群衆が後ろからディルダの兵へと襲いかかっていた。
無害な民衆だと思っていたのが敵に回り、ディルダの兵全体が大混乱に陥る。
彼らにとっては、レオールと私にばかり注目して完全な不意打ちだ。
すぐに数十人が叩きのめされる。さらに他の帝国の人間もレオールの選んだ精鋭――躊躇なく向かってくるディルダの兵を蹴散らしていた。
ディルダ側の損害はあっという間に膨れ上がっていく。
レオールがトルドとその仲間に呼びかけた。
「ヴォルデの民よ! その義心を嬉しく思うぞ! 愚かな王を打ち倒す機会は目前だ!」
「おおっ! 我らの正義を見せてやるのだ!!」
レオールの言葉にヴォルデの民は歓声を上げながら乱闘に殺到し、対してディルダの兵は……もうろくな組織的抵抗ができない有様だ。
私は勝利を確信しながら、冷めた目でディルダを見据えていた。
数と装備の上ではまだこちらが不利だったはず。
的確な指示と士気を保てば、私たちが負けることも充分にあり得た。
そもそもトルドたちヴォルデの民の参戦は計算外だったのだし。
でも内にはレオールと帝国兵、ルーインと私の護衛。外には熱狂したヴォルデの民衆。
緊迫して目まぐるしく動く事態にディルダは何もできなかった。
人を率いる才能が絶望的に欠けているのだ。
「駄目だ! 逃げろー!!」
「こ、降伏するっ! 武器も捨てる!!」
ディルダの兵が戦意を失い、勝手に逃走したり武器を捨てて戦うのを放棄する。
一度生み出された流れは止められない。敗北の予感は連鎖反応を起こし、伝播していく。
レオールが戦場全体を見渡す。
「脆いな。所詮は金で集めただけの非正規兵か」
「後ろを見せるなぁ! 戦えっ!」
「それは無理だ。こいつらは貴様の威光を盾に、旨い汁を吸おうとしていただけ……。誇りもなければ技量もない。王を守ることさえできん」
迫るレオールに、ディルダがみっともなく背を見せる。
「さらに掲げる王が暗君であれば、当然の帰結だ」
「ま、まだだ……!」
「……陛下」
ディルダの前に現れたのはオルドスだった。
ディルダが両腕を上げて戦場を指し示す。
「お、おお! オルドス、俺の忠臣! この不届き者たちを何とかしろ! 俺を勝たせろ!」
「無理でございます」
「は?」
「私めは何度も陛下をお止めいたしました。その結果がただいまの光景なのです」
「じゃあ、どうしろと!?」
「潔く降伏なさるのが良いかと」
「馬鹿めが! 俺はどうなる!」
「存じ上げません」
オルドスがはっきりと言い切ったのを聞いて、私はふふっと笑ってしまった。
「宰相としてできるのは、あとひとつだけでございます」
「な、何をするつもりだ?」
「公国の者どもよ、戦闘をやめて降伏せよ!」
オルドスのよく通る声が戦場に響き渡る。それはディルダの兵の士気の最後の一欠片を打ち砕くのに充分だった。
宰相からそう呼びかけられてまで戦える人間は、ディルダの下にはいない。
潮が引いていくように戦いが収束していく。
「な、なにを勝手に! 貴様ぁっ!」
「もう終わりにいたしましょう、陛下」
「こ、こいつ……っ!」
ディルダがオルドスの襟に掴みかかろうとするが、さらに背を向けて走り出した。
配下の兵を蹴飛ばし、ディルダが走る。
精錬施設のほうだ。逃げ切れるわけもないのに……。
レオールがディルダを追う。でも全速力じゃない。
ディルダのさらなる失策を待っているのだ。
「はぁ、はぁ……! どけぇっ!」
惨めなディルダが精錬施設の尖塔に辿り着く。
それからディルダは懐から鈴を取り出した。
「ふははっ、どうして俺がここを会見の場にしたか――そこまではわからなかったか!」
「……そうだな」
レオールは静かだ。ディルダの目は血走り、決死の形相だった。
「見ろ!」
ディルダが手製の鈴を取り出す。それは不格好で、いかにも素人が作ったような……でも
凄く嫌な予感がする。大気が振動して、何かが揺れ動くような。
「これが最後の機会だ。投降しろ」
「ほざけ! わかっているんだ、このヴォルデの下には魔獣が眠っている!」
ディルダが鈴を揺り動かそうとする。嫌な予感はますます増大していった。
この場にいる全員が只事ではない雰囲気を感じて、踏み止まる。
「さぁ、この場にいる全員を始末しろ! 公国王に跪かせるだ!」
ついにディルダが鈴を鳴らす。
鈴の音は奇妙に甲高く響いた。大地と大気の何かが蠢いている。
だが、私は慌てなかった。
手元から私も切り札を取り出す。それは小さな鈴だった。
ディルダの作った鈴、それを手に入れて急ぎ改造したものだった。
「無駄です、陛下」