愛しい俺様パイロットと、今日もいちゃいちゃ舌戦中
プロローグ
私は、仲のいい夫婦というものを知らない。もちろん、恋をすることもだ。
だから、利害が一致しているだけの愛のない結婚に応じたはずだった。
相手を好きになる必要がない方が、むしろ気楽だったから。
だけど……いざ始まった結婚生活は、危険な甘さに満ちていた。
「――俺が考える〝本物の夫〟は」
嫌いなはずだった結婚相手が、大人の色香を纏った瞳で見つめてくる。
彼の美しい顔が徐々に近づき、心臓が暴れる。
「妻がなにも知らないなら教えてやりたいし、かわいくてたまらないと思うだろう。もちろん思うだけじゃなく、愛情表現として口づけもする。……で、お前はどうしたい?」
私の知らない一般的な夫婦の形を、彼は実践で教えてくれようとしている。
知る必要はないと思っていたはずだったのに、彼の術中にはまって、知りたい方に心が傾く。
「お前が望むなら……存分にかわいがってやる」
彼の指先に唇をなぞられ、感じたことのない焦燥感に駆られる。
「私は……」
男の人なんて興味なかったのに。仕事だけが生きがいで、誰かと生きていくことなんて、子どもの頃からあきらめていたのに。
この人に見つめられていると、それが自分の本心ではないような気がしてくる。
――本当の私は、誰かと愛し合ってみたいんじゃないかって。
「近づきたいです。……本物に」
かりそめの夫に、心の底から湧いてくる素直な思いを告げる。
「……綺美」
愛しそうな声に名前を呼ばれ、彼の唇が重なる。
初めて教えられたキスは蕩けるように甘く、私の胸を熱く焦がしていった――。
< 1 / 26 >