愛しい俺様パイロットと、今日もいちゃいちゃ舌戦中
ロマンスとは無縁の日常
地上を離れ、高度およそ一万メートルを飛行する、巨大な旅客機。
窓の外に広がる空は海のように青く、夏らしくボリュームのある白い雲が浮いている。
客室乗務員である私、七里綺美は、乗客に安全で快適にな空の旅を提供するべく日々仕事に奮闘しているが、その舞台裏はかなりハードだ。
とくに、今は八月中旬の繁忙期。
普段飛行機に慣れていない乗客が時間に遅れてやきもきしたり、お土産でパンパンの手荷物を棚に押し込むのを手伝ったり、クレーム対応に追われたり……。
そんな余裕のない中でもなんとか笑顔を保ってフライトを乗り切ると、清々しい充実感と達成感に包まれる。
だから、私はこの多忙さがそれほど嫌いではない。
「ああ~……この髪、ほどかないと無理だ。どうしよう、時間ないのに」
後輩CAの泣きそうな声が聞こえて、仮眠を取ろうとしていた私は身を起こした。
ここは、飛行機の天井裏。一般の乗客には知られていない、機内の休憩室――通称クルーレストだ。
長距離国際線に利用される機体には、CAやパイロットが交代で休憩するためのこういったスペースが設けられている。
サンフランシスコから日本へ帰国する今回のフライトも、勤務時間が十時間を超えるため、私たちは交代でこのクルーレストを使用していた。
通路を挟んで簡易的な二段ベッドが向かい合って並んでおり、呼び出し用のインターホン、緊急時の酸素マスク、読書灯や身だしなみを整えるための小さな鏡が設置されている。
その鏡を覗いてあたふたしているのは、休憩を終えて客室に戻ろうとしているCAだ。