紫陽花の短編集物語#2
きみを忘れるたび、また恋をした
第1話 今日の私に、あなたは誰ですか
ベッドの上で目を覚ました結月(ゆづき)は、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。
部屋の壁に貼られた写真。机の上には小さなメモ帳と、録音機。
そして枕元には白い封筒。
「おはよう、結月。
今朝も君のことを想って、手紙を書いています。
君はたぶん、また僕のことを知らないだろうけど――
今日、もう一度恋をしてください。何度だって、僕は君を好きになります。——流星より」
胸が少しだけざわついた。知らないはずの名前。けれどその文字に、なぜか、懐かしさがこぼれ落ちそうになる。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第2話 教室の扉を開けた瞬間、目が合った
流星「……やっぱり、今日も少し目をそらすんだね」
結月「……え?」
流星「その目、はじめてじゃないから。僕にとっては、もう130回目くらいの“はじめまして”だから」
優しくて、ほんの少し寂しげな微笑み。
“今日もまた、好きになるんだな”って、そんなまなざしだった。
結月の心の奥で、何かがかすかに脈打つ
「もしも、本当にそうなら…この人が、わたしの恋人だったなら。わたしは、今日もまた、この人を好きになる準備ができてる気がする」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第3話 今日、君に恋をしたのは、僕にとっての○○回目の朝だった。
午前6時23分。
結月の目覚ましが鳴る少し前、ドアの前に置かれる白い封筒。
「おはよう、結月
きみがこの手紙を読んでいる頃、
きみの中の“昨日”は、どこかへ行ってると思う。
でもね、きみは今日も、ちゃんと笑ってくれるんだ」
それは毎朝、流星が書く“再会のための手紙”。
手紙の横には、小さなアルバムと、短いボイスレター。
「昨日の私」が笑った瞬間、「今日の結月」へ送られる“想いの証拠”。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第4話 明日の私へ
放課後、非常階段で。
流星「ねえ結月。俺たち、毎日“出会い直してる”んだよ」
結月「出会い直してる…?」
流星「今日のきみが俺をどう思うか、俺にはわからない。でも、俺はね――」
結月「…わたしが毎日、あなたを好きになるって信じてるんだね」
流星は、照れたように目をそらしながら頷く。
「だって、君が誰かを好きになる瞬間って、ほんとに綺麗なんだ」
「だから…その瞬間に、何度でも恋したい」
その夜、結月はこっそり日記にこう書いた
“明日の私へ。
今日、わたしは流星くんに少し恋をしたよ。
きっと、明日もまた――この気持ちを、思い出したいって思うはず。”
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第5話 きみのいない明日にも、好きでいさせて
梅雨の終わり、蒸し暑い午後。
その日も結月は、録音レターを聴きながら教室の窓を眺めていた。
流星の声はやわらかく、言葉のひとつひとつが心の奥に染み込む。
「きみが今日も忘れてしまっても、
僕が覚えている限り、ふたりの記憶はちゃんと残ってるよ。」
でも、ふとしたときに結月は思ってしまう。
「わたしが“好き”って気持ちを忘れて、
彼だけが毎朝、それをもう一度重ねてくれてる」
「その重さに、苦しまない人なんているのかな」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第6話 下校途中、公園のベンチ
いつもの場所で、流星が結月にマフィンを差し出す。
流星「また“はじめまして”だけど、甘いの好きだったと思って」
結月「……ありがとう。忘れてても、好きな味ってわかる気がする」
ほんの少しだけ沈黙が落ちて、
結月がつぶやくように言った。
結月「もし…もしも私が明日、“あなたのこと苦しいって思ったら”、どうする?」
流星「うーん、たぶん苦しまないようにって、一回だけ諦めるかも」
結月「……」
流星「でもすぐまた、忘れて、君に恋しちゃうんだろうな」
流星「それが僕の“後遺症”みたいなものだから」
結月は少しだけ泣きそうになって、でも笑った。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第7話 未来の自分へ
結月、未来への自分に手紙を書いている。
「きっと、流星くんは明日もあなたに会いにくる。
あなたが全部忘れていても、
ちゃんと、やさしい声で“おはよう”って言ってくれる人です。
だから、あなたはずっと流星くんを好きでいてください。
この思いは忘れないで。絶対に 未来の結月へ」
結月、手紙を書いている時に涙を流した。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第8話 あなたの名前が残った日
ある朝。
結月は目覚めた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。隣に置かれた手紙に目を通す前に、ふと手が止まる。
そして、ぽつりと口をひらく。
「……りゅうせい、くん……?」
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
理由もわからず、瞳に涙が浮かぶ。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第9話 心がひとつになったんだ。
流星「おはよう、結月。……もしかして、今朝は読んでくれなかった?」
結月「……ううん。読む前に、あなたの名前が……ふいに浮かんできたの」
流星「…………本当?」
結月「うん。たしかに、はじめて聞いたはずなのに、ずっと知ってた気がして。
……もしかして私、昨日の私とつながったのかな」
流星は言葉を失ったまま、結月の手をそっと握った。
「やっと、君の心がひとつになったんだ」
その日の午後、ふたりで歩いた帰り道
結月「まだ全部は思い出せない。昨日の風景も、言葉も。
でも……あなたの顔は、昨日もきっと見てたと思うの。
それだけは、もう…忘れたくないって、思えるの」
流星「……じゃあ、これからは記憶が消えても大丈夫だ。
“君が思い出そうとする気持ち”が、残るなら、それはきっと、記憶じゃなくて――」
結月「心なんだよね」
日記の最後の一行
「あすのわたしへ。今日のわたしは、りゅうせいくんの名前を忘れなかった。
きっと、あすのわたしも、この気持ちのあたたかさに触れると信じてる。」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
最終話 気持ちが繋ぐ明日へ
思い出していた、あなたの笑い方
真夜中。
夢のなかで、結月はひとつの場面を見ていた。
教室の窓ぎわで、誰かがマフィンを差し出す。
「チョコバナナが好きって、昨日のきみが言ってたから」
夢が終わる直前、彼の声がやさしく響く。
「あしたのきみも、笑ってくれたらうれしいな」
翌朝、目覚めた結月
視界がまだぼやけたまま、ふと目に映った封筒。
けれど、今日は開く前から、胸の奥に浮かんでいた。
流星くん。
わたし、きのう――笑ってた。
初めて、“夢じゃない感触”が心のなかに残っていた。
思い出の輪郭が、ぼんやりと、でも確かに脈打っていた。
教室。ふたりの目が合った瞬間
結月「……マフィン、今日も持ってきてる?」
流星「……えっ」
固まる流星に、結月は続ける。
結月「チョコバナナ。昨日の私、好きって言ったでしょ?」
流星「……覚えてるの…?」
結月「うん。夢のなかで、あなたの声を聴いた。
でも、あれは夢じゃなくて――昨日の私だったのかもしれない」
そして、少し照れたように笑った。
結月「わたし、あなたの笑い方も覚えてたよ」
その日、日記に刻まれた一文
「記憶じゃない。たぶん“気持ち”が、明日まで残ってくれてた。
わたしの心のなかには、ずっとあなたがいてくれてたんだね。ありがとう、流星くん」
【きみを忘れるたび、また恋をした 完結】
ベッドの上で目を覚ました結月(ゆづき)は、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。
部屋の壁に貼られた写真。机の上には小さなメモ帳と、録音機。
そして枕元には白い封筒。
「おはよう、結月。
今朝も君のことを想って、手紙を書いています。
君はたぶん、また僕のことを知らないだろうけど――
今日、もう一度恋をしてください。何度だって、僕は君を好きになります。——流星より」
胸が少しだけざわついた。知らないはずの名前。けれどその文字に、なぜか、懐かしさがこぼれ落ちそうになる。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第2話 教室の扉を開けた瞬間、目が合った
流星「……やっぱり、今日も少し目をそらすんだね」
結月「……え?」
流星「その目、はじめてじゃないから。僕にとっては、もう130回目くらいの“はじめまして”だから」
優しくて、ほんの少し寂しげな微笑み。
“今日もまた、好きになるんだな”って、そんなまなざしだった。
結月の心の奥で、何かがかすかに脈打つ
「もしも、本当にそうなら…この人が、わたしの恋人だったなら。わたしは、今日もまた、この人を好きになる準備ができてる気がする」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第3話 今日、君に恋をしたのは、僕にとっての○○回目の朝だった。
午前6時23分。
結月の目覚ましが鳴る少し前、ドアの前に置かれる白い封筒。
「おはよう、結月
きみがこの手紙を読んでいる頃、
きみの中の“昨日”は、どこかへ行ってると思う。
でもね、きみは今日も、ちゃんと笑ってくれるんだ」
それは毎朝、流星が書く“再会のための手紙”。
手紙の横には、小さなアルバムと、短いボイスレター。
「昨日の私」が笑った瞬間、「今日の結月」へ送られる“想いの証拠”。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第4話 明日の私へ
放課後、非常階段で。
流星「ねえ結月。俺たち、毎日“出会い直してる”んだよ」
結月「出会い直してる…?」
流星「今日のきみが俺をどう思うか、俺にはわからない。でも、俺はね――」
結月「…わたしが毎日、あなたを好きになるって信じてるんだね」
流星は、照れたように目をそらしながら頷く。
「だって、君が誰かを好きになる瞬間って、ほんとに綺麗なんだ」
「だから…その瞬間に、何度でも恋したい」
その夜、結月はこっそり日記にこう書いた
“明日の私へ。
今日、わたしは流星くんに少し恋をしたよ。
きっと、明日もまた――この気持ちを、思い出したいって思うはず。”
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第5話 きみのいない明日にも、好きでいさせて
梅雨の終わり、蒸し暑い午後。
その日も結月は、録音レターを聴きながら教室の窓を眺めていた。
流星の声はやわらかく、言葉のひとつひとつが心の奥に染み込む。
「きみが今日も忘れてしまっても、
僕が覚えている限り、ふたりの記憶はちゃんと残ってるよ。」
でも、ふとしたときに結月は思ってしまう。
「わたしが“好き”って気持ちを忘れて、
彼だけが毎朝、それをもう一度重ねてくれてる」
「その重さに、苦しまない人なんているのかな」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第6話 下校途中、公園のベンチ
いつもの場所で、流星が結月にマフィンを差し出す。
流星「また“はじめまして”だけど、甘いの好きだったと思って」
結月「……ありがとう。忘れてても、好きな味ってわかる気がする」
ほんの少しだけ沈黙が落ちて、
結月がつぶやくように言った。
結月「もし…もしも私が明日、“あなたのこと苦しいって思ったら”、どうする?」
流星「うーん、たぶん苦しまないようにって、一回だけ諦めるかも」
結月「……」
流星「でもすぐまた、忘れて、君に恋しちゃうんだろうな」
流星「それが僕の“後遺症”みたいなものだから」
結月は少しだけ泣きそうになって、でも笑った。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第7話 未来の自分へ
結月、未来への自分に手紙を書いている。
「きっと、流星くんは明日もあなたに会いにくる。
あなたが全部忘れていても、
ちゃんと、やさしい声で“おはよう”って言ってくれる人です。
だから、あなたはずっと流星くんを好きでいてください。
この思いは忘れないで。絶対に 未来の結月へ」
結月、手紙を書いている時に涙を流した。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第8話 あなたの名前が残った日
ある朝。
結月は目覚めた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。隣に置かれた手紙に目を通す前に、ふと手が止まる。
そして、ぽつりと口をひらく。
「……りゅうせい、くん……?」
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
理由もわからず、瞳に涙が浮かぶ。
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
第9話 心がひとつになったんだ。
流星「おはよう、結月。……もしかして、今朝は読んでくれなかった?」
結月「……ううん。読む前に、あなたの名前が……ふいに浮かんできたの」
流星「…………本当?」
結月「うん。たしかに、はじめて聞いたはずなのに、ずっと知ってた気がして。
……もしかして私、昨日の私とつながったのかな」
流星は言葉を失ったまま、結月の手をそっと握った。
「やっと、君の心がひとつになったんだ」
その日の午後、ふたりで歩いた帰り道
結月「まだ全部は思い出せない。昨日の風景も、言葉も。
でも……あなたの顔は、昨日もきっと見てたと思うの。
それだけは、もう…忘れたくないって、思えるの」
流星「……じゃあ、これからは記憶が消えても大丈夫だ。
“君が思い出そうとする気持ち”が、残るなら、それはきっと、記憶じゃなくて――」
結月「心なんだよね」
日記の最後の一行
「あすのわたしへ。今日のわたしは、りゅうせいくんの名前を忘れなかった。
きっと、あすのわたしも、この気持ちのあたたかさに触れると信じてる。」
【きみを忘れるたび、また恋をした 続く】
最終話 気持ちが繋ぐ明日へ
思い出していた、あなたの笑い方
真夜中。
夢のなかで、結月はひとつの場面を見ていた。
教室の窓ぎわで、誰かがマフィンを差し出す。
「チョコバナナが好きって、昨日のきみが言ってたから」
夢が終わる直前、彼の声がやさしく響く。
「あしたのきみも、笑ってくれたらうれしいな」
翌朝、目覚めた結月
視界がまだぼやけたまま、ふと目に映った封筒。
けれど、今日は開く前から、胸の奥に浮かんでいた。
流星くん。
わたし、きのう――笑ってた。
初めて、“夢じゃない感触”が心のなかに残っていた。
思い出の輪郭が、ぼんやりと、でも確かに脈打っていた。
教室。ふたりの目が合った瞬間
結月「……マフィン、今日も持ってきてる?」
流星「……えっ」
固まる流星に、結月は続ける。
結月「チョコバナナ。昨日の私、好きって言ったでしょ?」
流星「……覚えてるの…?」
結月「うん。夢のなかで、あなたの声を聴いた。
でも、あれは夢じゃなくて――昨日の私だったのかもしれない」
そして、少し照れたように笑った。
結月「わたし、あなたの笑い方も覚えてたよ」
その日、日記に刻まれた一文
「記憶じゃない。たぶん“気持ち”が、明日まで残ってくれてた。
わたしの心のなかには、ずっとあなたがいてくれてたんだね。ありがとう、流星くん」
【きみを忘れるたび、また恋をした 完結】