紫陽花の短編集物語#2

すれちがい言い訳会話録

第1話 言い訳禁止ゲーム⁉ 会話録 No.1

高校1年、春。
中学からずっと同じクラスの葵と太陽は、周りから見れば「安定の仲良しコンビ」だった。
放課後、ふたり並んで歩く帰り道。
太陽「なあ、今日のプリント、全部持ってってやるから。別に葵が忘れそうだったとか、そういうんじゃなくて」
葵「……あー、そっちこそ、“わざと隣の席キープしてた”とかじゃないよね?」
太陽「は? 隣空いてたし、座るだろ普通」
葵「ふ〜ん。べつにいいけど?」
そんな“言い訳の応酬”こそが、ふたりの日常だった。
でも、本音はずっと、別のところにある。

転機が訪れたのは、いつもの昼休み。
クラスメイトの南が、冗談交じりに言い出す。
南「なあ、あのふたり、今日から“言い訳禁止ゲーム”しなよ!」
葵「え、なにそれ」
南「言い訳したら負け。好意とか意図を“そのまんま言う”ルール。
太陽もやれよ。どうせ“好きじゃない感”出してんの、お互いだけだし」
言い訳封じられた瞬間、ふたりとも沈黙。
空気、ものすごく甘酸っぱくなる。

昼休み
太陽「さっきのノート、写させたのは……葵の字、読みやすいから」
葵「……うん。消しゴム貸したのも、持ってないの知ってたから」
太陽「…てか、お前の笑い声、今日ちょっと嬉しかった」
葵「……わたしも。太陽がこっち見てくれると、心のなかちょっとざわつく」
言い訳がない会話は、怖いけど、まっすぐだ。
これが“気持ちそのまま”だって知られるのは、はずかしくて、でもどこかうれしくて。
【すれちがい言い訳会話録】







第2話 照れてごまかせない、まっすぐな午後 会話録 No.2

“言い訳禁止ゲーム”は、なんとなく続行中。
言った方が負け。
でも言わないと、心が追いつかない。
そんな絶妙な距離感のなか、ふたりは今日も隣の席。

昼休み
太陽「今日の髪、ちょっと巻いてる」
葵「…うん、いつもより3分長く鏡の前いた」
太陽「似合ってる」
葵「……そっちも、襟直してきたでしょ。変なとこ几帳面すぎる」
太陽「誰の前に座るかと思ったら、ちゃんと直したくなっただけ」
ふたりとも、横を向いたまま。
でも耳は真っ赤だった。

帰り道、“言い訳”が口をついて出かけた瞬間――
葵「あのさ、さっき隣にいるのが私で良かったとかって、
……べつに他に誰もいなかったし――」
太陽「待った、それ今、言い訳になりかけてた」
葵「っ…! うそ、セーフでしょ今の」
太陽「もうアウト。今のルールなら、“嬉しかった”ってちゃんと言うターン」
葵は、ぐっと息を飲んで、一歩だけ太陽のほうに近づいた。
葵「……うれしかった。隣、太陽でよかった」
太陽「……っ」
沈黙の数秒後、太陽もぽつり。
太陽「俺はな、葵が横にいないと教科書めくるタイミングすらずれるんだよ」

次第に本音が“言い訳”より強くなって、
ふたりの心の距離がすこしずつ縮まっていく――そんな午後だった。
【すれちがい言い訳会話録】





第3話 罰ゲームは“ほんとのこと”を言うだけ 会話録 No.3

金曜日の放課後、教室の隅でゲームが始まった。
いつもの4人でやるトランプのババ抜き。
でも今回はちょっとルールが違う。
南「負けた人は、言い訳禁止ゲームの“未申告本音”ひとつ言うことー!」
太陽「なにその罰。地味につらいやつ」
葵「え、それ…今日ほんとにやんの?」
南「やる。逃げんなー。観客は全員ニヤニヤしてます」

そして――負けたのは、太陽。

教室の後ろ、机に頬をつけた太陽がもぞもぞ話す
太陽「……体育祭の日、“走るのおっそ”って言ったけど…
あれ、わざと俺の順位落として横でゴールした」
葵「えっ……」
太陽「…転びかけたとこで支えたかっただけ。あとなんか、
“2人並んでゴール”って言えたらいいなとか、…思ってた」
葵は、笑っていいのか、照れていいのか、困って下を向いた。
でも、顔がふっと赤くなって。
葵「……わたしも、その日、太陽のジャージの紐、こっそり整えてた」
葵「“チームカラーに似合ってる”とか言い訳してたけど、ただ見てたくて…」

沈黙後の、笑いあうふたり
太陽「なにそれ、もうバレバレじゃん」
葵「そっちが先にバレてたんでしょ」
太陽「なあ、これ罰ゲームっていうよりさ、もうさ――」
葵「“たまにしかできない本音の時間”になってるね」
ふたりの言葉は、いつもまわりくどくて、
でもちょっとだけ近くなってる。そんな金曜の、やさしい放課後。
【すれちがい言い訳会話録】





第4話 焼きもちって、気づかれたら負けだと思ってた。 会話録 No.4

教室の窓際。春風がカーテンを揺らす放課後。
葵のもとに届いた、一通のメモ。
「よかったら、今度 映画一緒に行かない?」
2年B組 水島
葵は返事に迷って、思わず太陽に相談してしまった。
葵「ねえ、こういうのって、普通断る? それとも…行ってみたりする?」
太陽「は? いや、別に、行けば?」
葵「え」
太陽「っていうか、水島とか別に悪いやつじゃねーし」
太陽「なんか“言い訳ゲーム”とかもうやめてんの?ふーん」

その言葉にはトゲがあって、葵は小さく眉をひそめた。
その夜、葵からのメッセージ
「太陽、怒ってる?」
「今日、なんか変だったよ」
「…言い訳していいから、ほんとは何考えてたか教えてほしい」
数分後。
「…怒ってねーよ」
「ただ、水島のやつ、女子と映画とか誘えるくらい余裕あるの意外だったなってだけ」
…それでも返さない葵に、しばらくしてもう一通。
「あーもー!!嘘。焼きもちです。
他のやつに誘われてんの見てんの、くそほど落ち着かなかったです。」
「ていうかさ――俺、ちゃんとお前のとなり座ってる理由、今まで全部言い訳してきたけど…
たぶん、もうダメだ」
【すれちがい言い訳会話録】









最終話 好きだよ。これは、どこにも逃げなかった言葉 会話記録 No.5

次の日、誰もいない放課後の教室。
葵の机の上に、たったひとつ置かれていたのは太陽の筆箱。
「屋上な」ってメモ付きで。
昇る階段、鼓動がうるさい。
風の中、太陽はポケットに手を突っ込んで、葵を見た。
太陽「昨日、あれ送ったあとも、5回くらい消して、また書いた」
葵「うん」
太陽「でも、もう言うわ。マジでちゃんと」
葵は、静かに待つ。
太陽「……好きだよ。中学から、ずっと。ノート貸してくれた日も、後ろで寝てた日も、
卒アルのコメントで“隣で助かった”って言われた日も――」
太陽「全部、俺にとっては、一緒にいる理由探してた日だった」
葵は目を見開いて、でも逃げなかった。
葵「わたしも…うん、たぶんずっとそうだった。
遠回しにしか言えなかったけど、
隣にいてくれる太陽が、いちばん安心だった」
初めての、言い訳なしでかわす笑顔
太陽「…これから、あんま言い訳しなくていいように頑張るわ」
葵「うん。でもたまには、言い訳ごとぜんぶ受け取るから」
そしてふたりは、ただ「うれしいね」って笑っただけで、
それが一番、本気の“好き”だった。
【すれちがい言い訳会話録 完結】
< 5 / 32 >

この作品をシェア

pagetop