夢は背中に貼れない
夢は背中に貼れない
第1章入部届と88人の壁
春の風が、制服の袖を揺らした。
俺は青嵐高校の野球部部室の前で、入部届を握りしめていた。
手汗で紙が少しよれてる。けど、これが俺の第一歩だ。
「甲子園で優勝するために、ここに来た。」
そう言い切れるくらい、俺はこの高校に賭けていた。
中学時代、そこそこ活躍した。でも“そこそこ”じゃ、甲子園には届かない。
だから、強豪校に飛び込むしかなかった。
部室の扉を開けると、すでに何人かの先輩たちがいた。
笑い声、筋トレの音、グラウンドからはバットの乾いた音。
空気が違う。ここは“本気”の場所だ。
「新入部員か?」
声をかけてきたのは、鋭い目をした先輩だった。
背中には「6」の背番号。キャプテンだ。名前は鳴海隼人。
甲子園でホームランを打った動画、何回も見た。
その本人が、目の前にいる。
「はい。澤村塁です。よろしくお願いします!」
俺は入部届を差し出した。鳴海先輩はそれを受け取り、無言で頷いた。
それだけなのに、心臓がバクバクしてる。
「グラウンド、行け。今日からお前も部員だ。」
その一言で、俺の高校野球が始まった。
グラウンドに出ると、そこには圧倒的な人数がいた。
ざっと見ても80人以上。俺はその中の1人にすぎない。
「部員は88人。背番号をもらえるのは20人だけだ。」
そう言ったのは、神谷先輩。副キャプテンで捕手。
冷静で、ちょっと怖い。でも、目は優しかった。
「お前がどんな夢を持ってようが、ここでは実力がすべてだ。」
その言葉に、俺はうなずいた。
わかってる。わかってるけど、夢は捨てられない。
「俺、甲子園で優勝したいんです。だから、ここで頑張ります。」
神谷先輩は少しだけ笑った。
「じゃあ、走れ。夢は口で言うもんじゃない。」
俺はスパイクを履いて、グラウンドに立った。
初練習。メニューは地獄みたいだった。
ランニング、ノック、筋トレ、そしてまたランニング。
でも、苦しいなんて思わなかった。
この汗の一滴一滴が、夢に近づく証だと思えたから。
「塁、次ノックだ! 外野!」
先輩の声に、俺は全力で走った。
ボールを追いかける。誰よりも速く、誰よりも必死に。
背中には、まだ何も貼られていない。
でも、俺の心には「夢」が貼ってある。
「おい、そこの1年! 球拾い、サボんな!」
怒鳴られた。俺だ。
ノックの合間に、打球を追っていたら、少し戻るのが遅れただけだった。
でも、ここでは“少し”が命取りになる。
「すみません!」
俺は全力で走ってボールを拾いに行った。
グラウンドの隅で、他の1年たちも黙々と動いている。
誰も喋らない。誰も笑わない。
ここでは、誰もが“見られている”ことを知っている。
「塁、次トスバッティングだ。バット持ってこい!」
先輩の指示に従って、バットを抱えて打席に立つ。
トスを上げてくれるのは、風間陸。
同じ1年なのに、すでに背番号「18」をもらっている天才投手。
「お前、外野希望なんだろ? 打てなきゃ話にならねぇぞ。」
風間はそう言って、無表情でトスを上げた。
俺は、振った。
芯を外した。
次も、外した。
三球目、ようやく当たった。けど、弱いゴロ。
「……ふーん。ま、頑張れよ。」
風間はそう言って、背を向けた。
悔しかった。
でも、悔しさを噛みしめる暇なんてない。
次の練習が始まる。次の声が飛ぶ。次の汗が流れる。
練習が終わったのは、夕方6時過ぎ。
グラウンドの空は、オレンジ色に染まっていた。
俺は、ユニフォームのままベンチに座り込んだ。
足が棒みたいだ。手のひらにはマメ。
でも、心は不思議と折れていなかった。
「おい、塁。」
声がした。鳴海キャプテンだった。
俺は慌てて立ち上がった。
「はい!」
「今日の練習、どうだった?」
「……正直、キツかったです。でも、楽しかったです。」
鳴海は少しだけ笑った。
その笑顔が、意外だった。
「88人いる。お前はその中の1人だ。だけどな、背番号は20しかない。」
「……はい。」
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。」
その言葉が、胸に刺さった。
俺は、何も言えなかった。
ただ、うなずいた。
「明日も来い。今日より速く、今日より強くなれ。」
鳴海はそう言って、グラウンドを後にした。
その背中には、確かに「6」の番号が貼られていた。
でも、それ以上に、何か大きなものが刻まれているように見えた。
俺も、いつか——
誰かにそう思わせる背中になりたい。
帰り道、制服に着替えた俺は、駅までの坂道を歩いていた。
足は重い。でも、心は軽かった。
スマホを開いて、母さんにメッセージを送る。
「初練習、終わった。めっちゃキツかった。でも、俺、ここで頑張る。」
送信ボタンを押したあと、空を見上げた。
春の夜風が、少しだけ冷たかった。
でも、俺の中には、確かに火が灯っていた。
家に帰ると、母さんが台所で夕飯の支度をしていた。
「おかえり、塁。どうだった?」
その声に、俺は「うん」とだけ答えた。
言葉にすると、なんだか涙が出そうだったから。
風呂に入って、湯船に浸かると、全身がじんじんと痛んだ。
でも、それが心地よかった。
この痛みは、俺が今日、夢に向かって動いた証だ。
布団に入ると、すぐに眠気が襲ってきた。
でも、目を閉じる前に、鳴海キャプテンの言葉が頭に浮かんだ。
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。」
俺は、心の中でそっとつぶやいた。
「俺の夢は、ここにある。」
翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
体は重い。でも、心は軽い。
制服に着替えて、朝食をかきこみ、家を飛び出した。
グラウンドに着くと、すでに何人かの部員が自主練をしていた。
その中に、鳴海キャプテンの姿もあった。
黙々と素振りをしている。誰よりも早く、誰よりも真剣に。
「……すげぇな。」
思わず声が漏れた。
キャプテンは、誰よりも努力している。
だから、誰よりも背中が輝いて見えるんだ。
俺も、バットを握った。
昨日の悔しさを思い出しながら、素振りを始めた。
一振り、また一振り。
風間に言われた「打てなきゃ話にならねぇ」が、頭にこびりついている。
「塁、フォーム悪くない。けど、力入りすぎ。」
振り返ると、神谷先輩がいた。
「力抜いて、芯でとらえることだけ考えろ。お前、外野希望だろ?」
「はい!」
「じゃあ、飛ばせ。外野は、打てなきゃ意味ない。」
その言葉に、俺はうなずいた。
そして、もう一度バットを振った。
昨日よりも、少しだけ鋭く。
昨日よりも、少しだけ遠くへ。
午前の練習が終わったあと、鳴海キャプテンが俺に声をかけてきた。
「塁、お前、昨日より良くなってる。」
「……本当ですか?」
「夢に向かって努力するやつは、必ず変わる。俺は、それを信じてる。」
その言葉に、胸が熱くなった。
俺は、まだ背番号を持っていない。
でも、俺の努力は、誰かに届いている。
「ありがとうございます。俺、もっと頑張ります!」
鳴海キャプテンは、笑った。
その笑顔は、昨日よりも少しだけ優しかった。
その日の帰り道、俺は空を見上げた。
雲ひとつない青空。
その向こうに、甲子園がある気がした。
「俺、絶対に背番号を手に入れる。夢は、絶対に叶える。」
心の中で、そう誓った。
そして、俺は走り出した。
誰よりも速く、誰よりも強く——
夢に向かって、背番号なき挑戦が続いていく。
第2章 背番号ゼロの努力
「塁、お前、今日も早いな。」
グラウンドに着くと、神谷先輩が声をかけてくれた。
朝6時。まだ太陽も本気を出してない時間。
でも、俺はもう汗だくだった。素振り300本、ランニング5周。
昨日より速く、昨日より強く——それだけを考えていた。
「昨日、鳴海キャプテンに褒められたんです。だから、もっと頑張りたくて。」
神谷先輩は少しだけ笑った。
「褒められるのは嬉しいけど、そこで満足したら終わりだぞ。」
「……はい!」
俺はバットを握り直した。
背番号はまだない。
でも、俺の中には確かに“何か”が育っている気がした。
午前の練習が始まると、グラウンドは一気に熱を帯びた。
88人の部員が、それぞれのメニューに取り組む。
その中で、俺は球拾いとノック補助。
地味な仕事。でも、俺は全力でやった。
「塁、球出し頼む!」
「はい!」
ノックの球を出すだけの役割。
でも、打球の方向、スピード、タイミング——全部を意識して、先輩が気持ちよく動けるように考えた。
「……お前、気が利くな。」
そう言ってくれたのは、外野の先輩だった。
その一言が、俺の心を少しだけ軽くした。
昼休み、ベンチでおにぎりを食べていると、風間が隣に座ってきた。
「……お前、変わったな。」
「え?」
「昨日より、動きが良くなってる。球出しも、ちゃんと考えてる。」
「……ありがとう。」
風間は、無表情のままおにぎりをかじった。
でも、その言葉が、俺には何よりのご褒美だった。
「俺、背番号もらえなくても、チームのために動けるようになりたい。」
「……それ、簡単じゃねぇぞ。」
「わかってます。でも、やります。」
風間は何も言わず、立ち上がった。
その背中には「18」の番号。
俺は、まだ“ゼロ”だ。
でも、ゼロから始まる努力は、きっと誰かに届く。
午後の練習では、外野ノックに混ぜてもらえた。
先輩たちと並んで、打球を追う。
足がもつれそうになる。でも、止まらない。
誰よりも速く、誰よりも遠くへ。
「塁、ナイスキャッチ!」
鳴海キャプテンの声が飛んだ。
俺は、思わず笑ってしまった。
この一言のために、俺は今日も走ってる。
「塁、ちょっと来い。」
練習後、鳴海キャプテンに呼ばれた。
俺は急いで駆け寄る。心臓が跳ねる。何かミスしたか?それとも——
「お前、今日の外野ノック、良かった。」
「……ありがとうございます!」
「でもな、まだ“背番号を持つ選手”の動きじゃない。」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
褒められたと思った瞬間、突きつけられる現実。
でも、それが鳴海キャプテンのスタイルなんだろう。
「背番号ってのは、ただの数字じゃない。責任だ。誇りだ。チームを背負う覚悟だ。」
「……はい。」
「お前がそれを背負えるようになるまで、俺は見てる。」
その言葉が、胸に刺さった。
俺は、まだ“見られている”だけの存在。
でも、いつか“選ばれる”存在になりたい。
翌日の練習では、風間とペアを組むことになった。
キャッチボール。距離を詰めながら、少しずつ会話も増えていく。
「お前、マジで変わったな。」
「……そうかな?」
「最初、ただの“夢語り野郎”かと思ってたけど、今はちょっと違う。」
「夢語り野郎って……ひどいな。」
風間は笑った。珍しく、心からの笑顔だった。
その瞬間、俺は思った。
このチームで、俺は少しずつ“仲間”になれてる。
週末、紅白戦が行われることになった。
もちろん、俺はベンチ。背番号がないから、試合には出られない。
でも、俺はスコアを取り、球拾いをし、声を出した。
誰よりも大きな声で、仲間を応援した。
「塁、ナイスサポート!」
「塁、ボールありがと!」
「塁、次の打者のデータ頼む!」
名前を呼ばれるたびに、胸が熱くなる。
俺は、ここにいる。
背番号ゼロでも、チームの一員だ。
試合後、鳴海キャプテンが俺に言った。
「塁、お前の声、ベンチで一番響いてた。」
「……ありがとうございます!」
「背番号はまだやらん。でも、お前の“背中”は、少しずつ見えてきた。」
その言葉に、俺は涙が出そうになった。
でも、泣かない。まだ、泣くには早すぎる。
俺は、走る。
誰よりも速く。誰よりも強く。
そして、誰よりも“夢に向かって”——
第3章キャプテンの言葉
「塁、お前、最近よく声出してるな。」
鳴海キャプテンが、練習後のベンチでぽつりと言った。
俺は、汗だくのままうなずいた。
「はい。試合に出られなくても、チームのためにできることはあると思って。」
「……それ、簡単に言えることじゃないぞ。」
鳴海は、グラウンドを見つめながら言った。
その目は、遠くを見ているようだった。
「俺も、1年のときは背番号もらえなかった。悔しくて、泣いた夜もあった。」
「え……キャプテンが?」
「そうだ。でもな、泣いたあと、俺は決めた。“誰よりも声を出す”って。」
俺は、言葉が出なかった。
鳴海キャプテンも、俺と同じだったんだ。
背番号ゼロから、ここまで来たんだ。
「塁、お前は今、誰よりもチームを見てる。誰よりも、仲間を支えてる。」
「……ありがとうございます。」
「だから、俺は思ってる。お前は、いつかこのチームを引っ張る存在になる。」
「え……それって……」
「キャプテンだよ。」
心臓が跳ねた。
俺が、キャプテン?
そんなこと、考えたこともなかった。
「まだ先の話だ。でも、俺はお前にその可能性を見てる。」
鳴海キャプテンは、立ち上がった。
背中の「6」が、夕焼けに照らされていた。
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。
でもな——いつか、その夢を“誰かの背中”に託す日が来る。」
その言葉が、俺の胸に深く刻まれた。
その夜、俺はノートを開いた。
練習メニュー、気づいたこと、仲間の動き——全部書き込んだ。
キャプテンになるって、ただ上手いだけじゃダメだ。
チームを知り、支え、導く力が必要なんだ。
「俺、やってみたいかも……キャプテン。」
小さくつぶやいたその言葉が、部屋の中に響いた。
夢が、少しだけ形になった気がした。
「おい、塁! 今のカバー、ナイス!」
ショートの大地が叫んだ。
俺は、サードの守備練習中にミスした後輩のカバーに入っていた。
「ありがとう! でも、次はお前が止める番だぞ!」
笑いながら返すと、大地も笑った。
こういうやり取りが、チームの空気を変える。
俺は、試合に出られなくても、チームの“温度”を上げる存在になれる。
「塁、ちょっと来てくれ。」
監督に呼ばれたのは、練習後のグラウンド。
俺は、少し緊張しながら近づいた。
「お前、最近よくチームを見てるな。声も出てる。
鳴海からも聞いてる。“塁がいると、空気が締まる”ってな。」
「……ありがとうございます。」
「背番号はまだ渡せない。でもな、次の練習試合——お前に“ベンチリーダー”を任せたい。」
「ベンチリーダー……?」
「試合に出ない選手の動き、声、サポート。全部、お前が指示してくれ。」
俺は、胸が熱くなった。
背番号ゼロでも、チームの中心になれる。
それが、俺の“今の役割”なんだ。
練習試合当日。
俺は、ベンチの最前列に立った。
「声出していこう! 守備の間、ベンチも動くぞ!」
「ナイスバッティング! 次、つなげ!」
仲間の名前を呼び、プレーを称え、ミスには励ましを。
俺の声が、ベンチを動かし、グラウンドに届いていく。
そして——
「塁、今日のベンチ、最高だったぞ。」
鳴海キャプテンが、試合後に言った。
「お前がいたから、みんな集中できた。“キャプテンって、こういうことだよな”って思った。」
その言葉が、俺の胸に深く響いた。
その夜、俺はノートにこう書いた。
「キャプテンとは、背番号じゃない。
チームの“心”を動かす存在。」
俺は、まだ背番号ゼロ。
でも、心の中には——「1」がある。
第4章 背番号の意味
「塁、これ——お前に渡す。」
監督が差し出したユニフォーム。
胸元には「ホームラン学園」、背中には——「10」。
「え……俺が、10番を?」
「お前は、背番号ゼロからここまで来た。
声で、行動で、仲間を支えてきた。
この“10”は、プレーだけじゃなく、チームの“心”を背負う番号だ。」
俺は、震える手でユニフォームを受け取った。
重かった。数字以上に、想いが詰まっていた。
「ありがとうございます……絶対、後悔させません。」
監督はうなずいた。
「その言葉、甲子園で証明しろ。」
その夜、俺はノートにこう書いた。
「背番号10——これは、俺の“夢の証明”。
ゼロから始まった物語は、ここから“本当の勝負”が始まる。
「鳴海、今日は無理だ。熱が下がらん。」
監督の言葉に、部室がざわついた。
甲子園予選の初戦。まさか、キャプテンが欠場なんて——。
「監督、俺がキャプテン代理をやります。」
塁の声が、静かに響いた。
誰も驚かなかった。
この数ヶ月、塁は“背番号10”として、誰よりもチームを支えてきた。
「よし、塁。お前に任せる。今日のキャプテンは——塁だ。」
試合前の円陣。
塁は、仲間たちの目を見て言った。
「今日、鳴海さんはいない。でも、俺たちの“心”はここにある。
背番号じゃない。気持ちで勝つぞ!」
「おうっ!!」
声が、グラウンドに響いた。
塁の言葉が、チームをひとつにした。
試合は接戦だった。
相手は強豪校。ミスひとつで流れが変わる。
「大地、次は外角。落ち着いていけ!」
「ナイスカバー、翔太! その一歩が勝負を分ける!」
塁の声が、ベンチから飛び続けた。
プレーだけじゃない。
“チームの温度”を操るのが、塁のキャプテンシーだった。
そして——
「ゲームセット! ホームラン学園、勝利!!」
歓声が爆発した。
塁は、拳を握りしめた。
背番号10が、初めて“勝利の中心”に立った瞬間だった。
試合後、鳴海キャプテンが病院から電話をくれた。
「塁……ありがとう。
お前がキャプテンで、本当に良かった。」
塁は、電話の向こうで静かにうなずいた。
「俺、もっと強くなります。
この背番号に、恥じないように。」
その夜、ノートにこう書いた。
「背番号10は、俺の“責任”。
キャプテン代理じゃなく、いつか“本物”になる。」
第5章背番号10の夏
「ホームラン学園、決勝進出!!」
スタンドが揺れた。
俺たちは、県大会の決勝に進んだ。
高2の夏——俺はキャプテン代理として、背番号10を背負っていた。
「塁、マジで頼りになるわ。お前がいると、みんな落ち着く。」
大地が笑いながら言った。
俺はうなずいた。
このチームは、俺の“声”と“行動”で動いている。
それが、今の俺の役割だ。
決勝戦。
相手は、去年の甲子園出場校。
強かった。俺たちも、全力でぶつかった。
——結果は、2対3。惜敗。
グラウンドに倒れ込んだ俺たちに、スタンドから拍手が送られた。
「塁……ありがとう。お前がいたから、ここまで来れた。」
鳴海キャプテンが、涙をこらえながら言った。
「高2で県1位なんて、前代未聞だ。
でも、それは——塁のおかげだ。」
その言葉が、俺の胸に深く刻まれた。
その夜、ノートにこう書いた。
「高2の夏、俺たちは県で1番になった。
でも、俺の夢は——まだ終わってない。」
第6章 キャプテンとしての夏
「塁、キャプテン就任おめでとう!」
春の新チーム始動日。
部室に集まった仲間たちが、拍手で迎えてくれた。
俺は、深く頭を下げた。
「ありがとう。俺がキャプテンになったからには、今年は——甲子園優勝しか見てない。」
その言葉に、誰も笑わなかった。
本気だって、みんなわかってた。
春の練習試合。
俺は、背番号10を背負ってグラウンドに立った。
でも、キャプテンになったからって、急に何かが変わるわけじゃない。
「塁、今日の守備位置、ちょっと変えてみたいんだけど……」
後輩の翔太が、遠慮がちに言った。
「いいよ。理由は?」
「大地と連携がうまくいかなくて……俺、セカンドの方が動きやすいかも。」
俺はうなずいた。
「じゃあ、試してみよう。失敗しても、俺が責任取る。」
その一言で、翔太の顔が変わった。
キャプテンって、こういうことなんだ。
“背中を預けてもらう”存在になること。
夏の大会が近づくにつれて、チームはひとつになっていった。
俺は、毎晩ノートを開いて、練習メニュー、仲間の動き、試合の反省を書き続けた。
「キャプテンは、誰よりもチームを知っていなきゃいけない。」
それが、俺の信念だった。
そして——甲子園予選、開幕。
初戦、快勝。
2回戦、接戦を制す。
準決勝、延長戦の末に勝利。
そして、決勝戦。
相手は、去年敗れた強豪校。
高2の夏、俺たちが県1位になったとき、唯一勝てなかった相手。
「塁、リベンジだな。」
大地が笑った。
俺は、静かにうなずいた。
「いや、これは“証明”だ。俺たちが、全国に行くべきチームだって。」
試合は、序盤から激しい展開だった。
1回裏、先制点を許す。
3回表、俺のタイムリーで同点。
6回裏、エラーで逆転される。
「落ち着け! まだ終わってない!」
俺は、ベンチから叫んだ。
仲間の目が、俺を見ていた。
このチームは、俺の“声”で動く。
9回表、2アウト満塁。
バッターは——俺。
「塁、頼む……!」
スタンドから、仲間の声が飛ぶ。
俺は、バットを握りしめた。
——初球、ストライク。
——2球目、ボール。
——3球目、インコース高め。
振った。
打球は、ライトの頭上を越えていった。
「走れ、塁!!」
俺は、全力で走った。
二塁、三塁——そして、ホーム。
「セーフ!!」
逆転。
俺たちは、ついに勝った。
「ホームラン学園、甲子園出場決定!!」
涙が止まらなかった。
高2の夏、あと一歩届かなかった夢。
高3の夏、俺たちはその夢を掴んだ。
俺たちは夢の舞台にきた。
これも、今までの努力のおかげだ。
でも、俺たちはここで終わらない。
絶対に甲子園で優勝だ!
甲子園本戦。
初戦、快勝。
2回戦、接戦を制す。
準々決勝、延長戦でサヨナラ勝ち。
準決勝、雨の中の激闘を制す。
そして——決勝戦。
相手は、去年に優勝した関西の強豪校。
全国屈指の打線を誇るチーム。
「塁、最後の試合だな。」
監督が言った。
俺は、うなずいた。
「はい。でも、俺たちの“物語”は、ここで完成します。」
試合は、まさに死闘だった。
1点を争う展開。
守備のミス、走塁の判断、すべてが勝敗を左右する。
そして、9回裏。
同点。
2アウト、ランナー三塁。
バッターは——大地。
「塁、俺、打つよ。」
「信じてる。」
——初球、ストライク。
——2球目、センター前ヒット。
「ゲームセット!! ホームラン学園、甲子園優勝!!」
歓声が、空を突き抜けた。
俺たちは、夢を叶えた。
表彰式。
俺は、キャプテンとして優勝旗を受け取った。
「塁、最高のキャプテンだったよ。」
監督が、涙を浮かべながら言った。
「お前がいたから、このチームは“心”を持てた。」
俺は、笑った。
「背番号10は、俺の“夢の証明”です。」
その夜、最後のノートにこう書いた。
「高2の夏、俺はキャプテン代理だった。
高3の夏、俺はキャプテンとして、甲子園を制した。
背番号10は、俺の人生そのものだった。」
最終章 背番号10のその先へ
甲子園優勝から数日後。
ホームラン学園の校門前には、報道陣と地元の人々が集まっていた。
「優勝おめでとう!」
「塁キャプテン、ありがとう!」
その声に、俺は少し照れながら頭を下げた。
でも、心の中では静かに燃えていた。
この物語は、まだ終わっていない。
卒業式。
俺は、最後の制服を着て、最後の校舎を歩いた。
教室の窓から見えるグラウンドには、後輩たちが練習していた。
「塁先輩、ありがとうございました!」
翔太、大地、そして新キャプテンの悠真が駆け寄ってきた。
「俺たち、来年も甲子園行きます。いや——連覇、狙います!」
俺は笑った。
「その言葉、信じてる。
でもな、甲子園は“夢”じゃなく、“覚悟”で掴む場所だ。
背番号に頼るな。心で戦え。」
悠真は、背番号10のユニフォームを握りしめてうなずいた。
「はい。塁先輩の“その先”を、俺たちが見せます。」
俺は、大学でも野球を続けることにした。
プロを目指すわけじゃない。
でも、野球を通して“人を育てる”道に進みたいと思った。
「将来は、指導者になりたいです。」
面接でそう言ったとき、面接官がうなずいた。
「君の背番号10には、物語があるんだね。」
俺は、静かに笑った。
「はい。でも、物語は——まだ続いてます。」
その夜、最後のノートにこう書いた。
「背番号10は、俺の“夢の証明”だった。
でも今は、“誰かの夢を支える力”になりたい。
この物語の続きを、後輩たちが描いてくれる。」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【最後にみなさんへ 筆者より】
きっと、努力すればその努力は少しは報われる。
努力は結果につなげます!!
あなたにエールを送りたくて、この物語を書きました!!
あなたに希望を与えられたなら、幸いです!!
これからも、あなたの頑張りを期待しています!!
【裏話】
『きっと、努力すればその努力は少しは報われる。』って書いたんですけど、本当は『きっと、努力すればその努力は必ず報われる。』です!!
『必ず』はあなたにプレッシャーを与えてしまうのではないかと思い、『少しは』にしました!!
春の風が、制服の袖を揺らした。
俺は青嵐高校の野球部部室の前で、入部届を握りしめていた。
手汗で紙が少しよれてる。けど、これが俺の第一歩だ。
「甲子園で優勝するために、ここに来た。」
そう言い切れるくらい、俺はこの高校に賭けていた。
中学時代、そこそこ活躍した。でも“そこそこ”じゃ、甲子園には届かない。
だから、強豪校に飛び込むしかなかった。
部室の扉を開けると、すでに何人かの先輩たちがいた。
笑い声、筋トレの音、グラウンドからはバットの乾いた音。
空気が違う。ここは“本気”の場所だ。
「新入部員か?」
声をかけてきたのは、鋭い目をした先輩だった。
背中には「6」の背番号。キャプテンだ。名前は鳴海隼人。
甲子園でホームランを打った動画、何回も見た。
その本人が、目の前にいる。
「はい。澤村塁です。よろしくお願いします!」
俺は入部届を差し出した。鳴海先輩はそれを受け取り、無言で頷いた。
それだけなのに、心臓がバクバクしてる。
「グラウンド、行け。今日からお前も部員だ。」
その一言で、俺の高校野球が始まった。
グラウンドに出ると、そこには圧倒的な人数がいた。
ざっと見ても80人以上。俺はその中の1人にすぎない。
「部員は88人。背番号をもらえるのは20人だけだ。」
そう言ったのは、神谷先輩。副キャプテンで捕手。
冷静で、ちょっと怖い。でも、目は優しかった。
「お前がどんな夢を持ってようが、ここでは実力がすべてだ。」
その言葉に、俺はうなずいた。
わかってる。わかってるけど、夢は捨てられない。
「俺、甲子園で優勝したいんです。だから、ここで頑張ります。」
神谷先輩は少しだけ笑った。
「じゃあ、走れ。夢は口で言うもんじゃない。」
俺はスパイクを履いて、グラウンドに立った。
初練習。メニューは地獄みたいだった。
ランニング、ノック、筋トレ、そしてまたランニング。
でも、苦しいなんて思わなかった。
この汗の一滴一滴が、夢に近づく証だと思えたから。
「塁、次ノックだ! 外野!」
先輩の声に、俺は全力で走った。
ボールを追いかける。誰よりも速く、誰よりも必死に。
背中には、まだ何も貼られていない。
でも、俺の心には「夢」が貼ってある。
「おい、そこの1年! 球拾い、サボんな!」
怒鳴られた。俺だ。
ノックの合間に、打球を追っていたら、少し戻るのが遅れただけだった。
でも、ここでは“少し”が命取りになる。
「すみません!」
俺は全力で走ってボールを拾いに行った。
グラウンドの隅で、他の1年たちも黙々と動いている。
誰も喋らない。誰も笑わない。
ここでは、誰もが“見られている”ことを知っている。
「塁、次トスバッティングだ。バット持ってこい!」
先輩の指示に従って、バットを抱えて打席に立つ。
トスを上げてくれるのは、風間陸。
同じ1年なのに、すでに背番号「18」をもらっている天才投手。
「お前、外野希望なんだろ? 打てなきゃ話にならねぇぞ。」
風間はそう言って、無表情でトスを上げた。
俺は、振った。
芯を外した。
次も、外した。
三球目、ようやく当たった。けど、弱いゴロ。
「……ふーん。ま、頑張れよ。」
風間はそう言って、背を向けた。
悔しかった。
でも、悔しさを噛みしめる暇なんてない。
次の練習が始まる。次の声が飛ぶ。次の汗が流れる。
練習が終わったのは、夕方6時過ぎ。
グラウンドの空は、オレンジ色に染まっていた。
俺は、ユニフォームのままベンチに座り込んだ。
足が棒みたいだ。手のひらにはマメ。
でも、心は不思議と折れていなかった。
「おい、塁。」
声がした。鳴海キャプテンだった。
俺は慌てて立ち上がった。
「はい!」
「今日の練習、どうだった?」
「……正直、キツかったです。でも、楽しかったです。」
鳴海は少しだけ笑った。
その笑顔が、意外だった。
「88人いる。お前はその中の1人だ。だけどな、背番号は20しかない。」
「……はい。」
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。」
その言葉が、胸に刺さった。
俺は、何も言えなかった。
ただ、うなずいた。
「明日も来い。今日より速く、今日より強くなれ。」
鳴海はそう言って、グラウンドを後にした。
その背中には、確かに「6」の番号が貼られていた。
でも、それ以上に、何か大きなものが刻まれているように見えた。
俺も、いつか——
誰かにそう思わせる背中になりたい。
帰り道、制服に着替えた俺は、駅までの坂道を歩いていた。
足は重い。でも、心は軽かった。
スマホを開いて、母さんにメッセージを送る。
「初練習、終わった。めっちゃキツかった。でも、俺、ここで頑張る。」
送信ボタンを押したあと、空を見上げた。
春の夜風が、少しだけ冷たかった。
でも、俺の中には、確かに火が灯っていた。
家に帰ると、母さんが台所で夕飯の支度をしていた。
「おかえり、塁。どうだった?」
その声に、俺は「うん」とだけ答えた。
言葉にすると、なんだか涙が出そうだったから。
風呂に入って、湯船に浸かると、全身がじんじんと痛んだ。
でも、それが心地よかった。
この痛みは、俺が今日、夢に向かって動いた証だ。
布団に入ると、すぐに眠気が襲ってきた。
でも、目を閉じる前に、鳴海キャプテンの言葉が頭に浮かんだ。
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。」
俺は、心の中でそっとつぶやいた。
「俺の夢は、ここにある。」
翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
体は重い。でも、心は軽い。
制服に着替えて、朝食をかきこみ、家を飛び出した。
グラウンドに着くと、すでに何人かの部員が自主練をしていた。
その中に、鳴海キャプテンの姿もあった。
黙々と素振りをしている。誰よりも早く、誰よりも真剣に。
「……すげぇな。」
思わず声が漏れた。
キャプテンは、誰よりも努力している。
だから、誰よりも背中が輝いて見えるんだ。
俺も、バットを握った。
昨日の悔しさを思い出しながら、素振りを始めた。
一振り、また一振り。
風間に言われた「打てなきゃ話にならねぇ」が、頭にこびりついている。
「塁、フォーム悪くない。けど、力入りすぎ。」
振り返ると、神谷先輩がいた。
「力抜いて、芯でとらえることだけ考えろ。お前、外野希望だろ?」
「はい!」
「じゃあ、飛ばせ。外野は、打てなきゃ意味ない。」
その言葉に、俺はうなずいた。
そして、もう一度バットを振った。
昨日よりも、少しだけ鋭く。
昨日よりも、少しだけ遠くへ。
午前の練習が終わったあと、鳴海キャプテンが俺に声をかけてきた。
「塁、お前、昨日より良くなってる。」
「……本当ですか?」
「夢に向かって努力するやつは、必ず変わる。俺は、それを信じてる。」
その言葉に、胸が熱くなった。
俺は、まだ背番号を持っていない。
でも、俺の努力は、誰かに届いている。
「ありがとうございます。俺、もっと頑張ります!」
鳴海キャプテンは、笑った。
その笑顔は、昨日よりも少しだけ優しかった。
その日の帰り道、俺は空を見上げた。
雲ひとつない青空。
その向こうに、甲子園がある気がした。
「俺、絶対に背番号を手に入れる。夢は、絶対に叶える。」
心の中で、そう誓った。
そして、俺は走り出した。
誰よりも速く、誰よりも強く——
夢に向かって、背番号なき挑戦が続いていく。
第2章 背番号ゼロの努力
「塁、お前、今日も早いな。」
グラウンドに着くと、神谷先輩が声をかけてくれた。
朝6時。まだ太陽も本気を出してない時間。
でも、俺はもう汗だくだった。素振り300本、ランニング5周。
昨日より速く、昨日より強く——それだけを考えていた。
「昨日、鳴海キャプテンに褒められたんです。だから、もっと頑張りたくて。」
神谷先輩は少しだけ笑った。
「褒められるのは嬉しいけど、そこで満足したら終わりだぞ。」
「……はい!」
俺はバットを握り直した。
背番号はまだない。
でも、俺の中には確かに“何か”が育っている気がした。
午前の練習が始まると、グラウンドは一気に熱を帯びた。
88人の部員が、それぞれのメニューに取り組む。
その中で、俺は球拾いとノック補助。
地味な仕事。でも、俺は全力でやった。
「塁、球出し頼む!」
「はい!」
ノックの球を出すだけの役割。
でも、打球の方向、スピード、タイミング——全部を意識して、先輩が気持ちよく動けるように考えた。
「……お前、気が利くな。」
そう言ってくれたのは、外野の先輩だった。
その一言が、俺の心を少しだけ軽くした。
昼休み、ベンチでおにぎりを食べていると、風間が隣に座ってきた。
「……お前、変わったな。」
「え?」
「昨日より、動きが良くなってる。球出しも、ちゃんと考えてる。」
「……ありがとう。」
風間は、無表情のままおにぎりをかじった。
でも、その言葉が、俺には何よりのご褒美だった。
「俺、背番号もらえなくても、チームのために動けるようになりたい。」
「……それ、簡単じゃねぇぞ。」
「わかってます。でも、やります。」
風間は何も言わず、立ち上がった。
その背中には「18」の番号。
俺は、まだ“ゼロ”だ。
でも、ゼロから始まる努力は、きっと誰かに届く。
午後の練習では、外野ノックに混ぜてもらえた。
先輩たちと並んで、打球を追う。
足がもつれそうになる。でも、止まらない。
誰よりも速く、誰よりも遠くへ。
「塁、ナイスキャッチ!」
鳴海キャプテンの声が飛んだ。
俺は、思わず笑ってしまった。
この一言のために、俺は今日も走ってる。
「塁、ちょっと来い。」
練習後、鳴海キャプテンに呼ばれた。
俺は急いで駆け寄る。心臓が跳ねる。何かミスしたか?それとも——
「お前、今日の外野ノック、良かった。」
「……ありがとうございます!」
「でもな、まだ“背番号を持つ選手”の動きじゃない。」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
褒められたと思った瞬間、突きつけられる現実。
でも、それが鳴海キャプテンのスタイルなんだろう。
「背番号ってのは、ただの数字じゃない。責任だ。誇りだ。チームを背負う覚悟だ。」
「……はい。」
「お前がそれを背負えるようになるまで、俺は見てる。」
その言葉が、胸に刺さった。
俺は、まだ“見られている”だけの存在。
でも、いつか“選ばれる”存在になりたい。
翌日の練習では、風間とペアを組むことになった。
キャッチボール。距離を詰めながら、少しずつ会話も増えていく。
「お前、マジで変わったな。」
「……そうかな?」
「最初、ただの“夢語り野郎”かと思ってたけど、今はちょっと違う。」
「夢語り野郎って……ひどいな。」
風間は笑った。珍しく、心からの笑顔だった。
その瞬間、俺は思った。
このチームで、俺は少しずつ“仲間”になれてる。
週末、紅白戦が行われることになった。
もちろん、俺はベンチ。背番号がないから、試合には出られない。
でも、俺はスコアを取り、球拾いをし、声を出した。
誰よりも大きな声で、仲間を応援した。
「塁、ナイスサポート!」
「塁、ボールありがと!」
「塁、次の打者のデータ頼む!」
名前を呼ばれるたびに、胸が熱くなる。
俺は、ここにいる。
背番号ゼロでも、チームの一員だ。
試合後、鳴海キャプテンが俺に言った。
「塁、お前の声、ベンチで一番響いてた。」
「……ありがとうございます!」
「背番号はまだやらん。でも、お前の“背中”は、少しずつ見えてきた。」
その言葉に、俺は涙が出そうになった。
でも、泣かない。まだ、泣くには早すぎる。
俺は、走る。
誰よりも速く。誰よりも強く。
そして、誰よりも“夢に向かって”——
第3章キャプテンの言葉
「塁、お前、最近よく声出してるな。」
鳴海キャプテンが、練習後のベンチでぽつりと言った。
俺は、汗だくのままうなずいた。
「はい。試合に出られなくても、チームのためにできることはあると思って。」
「……それ、簡単に言えることじゃないぞ。」
鳴海は、グラウンドを見つめながら言った。
その目は、遠くを見ているようだった。
「俺も、1年のときは背番号もらえなかった。悔しくて、泣いた夜もあった。」
「え……キャプテンが?」
「そうだ。でもな、泣いたあと、俺は決めた。“誰よりも声を出す”って。」
俺は、言葉が出なかった。
鳴海キャプテンも、俺と同じだったんだ。
背番号ゼロから、ここまで来たんだ。
「塁、お前は今、誰よりもチームを見てる。誰よりも、仲間を支えてる。」
「……ありがとうございます。」
「だから、俺は思ってる。お前は、いつかこのチームを引っ張る存在になる。」
「え……それって……」
「キャプテンだよ。」
心臓が跳ねた。
俺が、キャプテン?
そんなこと、考えたこともなかった。
「まだ先の話だ。でも、俺はお前にその可能性を見てる。」
鳴海キャプテンは、立ち上がった。
背中の「6」が、夕焼けに照らされていた。
「夢は、背中に貼るもんじゃない。心に刻むもんだ。
でもな——いつか、その夢を“誰かの背中”に託す日が来る。」
その言葉が、俺の胸に深く刻まれた。
その夜、俺はノートを開いた。
練習メニュー、気づいたこと、仲間の動き——全部書き込んだ。
キャプテンになるって、ただ上手いだけじゃダメだ。
チームを知り、支え、導く力が必要なんだ。
「俺、やってみたいかも……キャプテン。」
小さくつぶやいたその言葉が、部屋の中に響いた。
夢が、少しだけ形になった気がした。
「おい、塁! 今のカバー、ナイス!」
ショートの大地が叫んだ。
俺は、サードの守備練習中にミスした後輩のカバーに入っていた。
「ありがとう! でも、次はお前が止める番だぞ!」
笑いながら返すと、大地も笑った。
こういうやり取りが、チームの空気を変える。
俺は、試合に出られなくても、チームの“温度”を上げる存在になれる。
「塁、ちょっと来てくれ。」
監督に呼ばれたのは、練習後のグラウンド。
俺は、少し緊張しながら近づいた。
「お前、最近よくチームを見てるな。声も出てる。
鳴海からも聞いてる。“塁がいると、空気が締まる”ってな。」
「……ありがとうございます。」
「背番号はまだ渡せない。でもな、次の練習試合——お前に“ベンチリーダー”を任せたい。」
「ベンチリーダー……?」
「試合に出ない選手の動き、声、サポート。全部、お前が指示してくれ。」
俺は、胸が熱くなった。
背番号ゼロでも、チームの中心になれる。
それが、俺の“今の役割”なんだ。
練習試合当日。
俺は、ベンチの最前列に立った。
「声出していこう! 守備の間、ベンチも動くぞ!」
「ナイスバッティング! 次、つなげ!」
仲間の名前を呼び、プレーを称え、ミスには励ましを。
俺の声が、ベンチを動かし、グラウンドに届いていく。
そして——
「塁、今日のベンチ、最高だったぞ。」
鳴海キャプテンが、試合後に言った。
「お前がいたから、みんな集中できた。“キャプテンって、こういうことだよな”って思った。」
その言葉が、俺の胸に深く響いた。
その夜、俺はノートにこう書いた。
「キャプテンとは、背番号じゃない。
チームの“心”を動かす存在。」
俺は、まだ背番号ゼロ。
でも、心の中には——「1」がある。
第4章 背番号の意味
「塁、これ——お前に渡す。」
監督が差し出したユニフォーム。
胸元には「ホームラン学園」、背中には——「10」。
「え……俺が、10番を?」
「お前は、背番号ゼロからここまで来た。
声で、行動で、仲間を支えてきた。
この“10”は、プレーだけじゃなく、チームの“心”を背負う番号だ。」
俺は、震える手でユニフォームを受け取った。
重かった。数字以上に、想いが詰まっていた。
「ありがとうございます……絶対、後悔させません。」
監督はうなずいた。
「その言葉、甲子園で証明しろ。」
その夜、俺はノートにこう書いた。
「背番号10——これは、俺の“夢の証明”。
ゼロから始まった物語は、ここから“本当の勝負”が始まる。
「鳴海、今日は無理だ。熱が下がらん。」
監督の言葉に、部室がざわついた。
甲子園予選の初戦。まさか、キャプテンが欠場なんて——。
「監督、俺がキャプテン代理をやります。」
塁の声が、静かに響いた。
誰も驚かなかった。
この数ヶ月、塁は“背番号10”として、誰よりもチームを支えてきた。
「よし、塁。お前に任せる。今日のキャプテンは——塁だ。」
試合前の円陣。
塁は、仲間たちの目を見て言った。
「今日、鳴海さんはいない。でも、俺たちの“心”はここにある。
背番号じゃない。気持ちで勝つぞ!」
「おうっ!!」
声が、グラウンドに響いた。
塁の言葉が、チームをひとつにした。
試合は接戦だった。
相手は強豪校。ミスひとつで流れが変わる。
「大地、次は外角。落ち着いていけ!」
「ナイスカバー、翔太! その一歩が勝負を分ける!」
塁の声が、ベンチから飛び続けた。
プレーだけじゃない。
“チームの温度”を操るのが、塁のキャプテンシーだった。
そして——
「ゲームセット! ホームラン学園、勝利!!」
歓声が爆発した。
塁は、拳を握りしめた。
背番号10が、初めて“勝利の中心”に立った瞬間だった。
試合後、鳴海キャプテンが病院から電話をくれた。
「塁……ありがとう。
お前がキャプテンで、本当に良かった。」
塁は、電話の向こうで静かにうなずいた。
「俺、もっと強くなります。
この背番号に、恥じないように。」
その夜、ノートにこう書いた。
「背番号10は、俺の“責任”。
キャプテン代理じゃなく、いつか“本物”になる。」
第5章背番号10の夏
「ホームラン学園、決勝進出!!」
スタンドが揺れた。
俺たちは、県大会の決勝に進んだ。
高2の夏——俺はキャプテン代理として、背番号10を背負っていた。
「塁、マジで頼りになるわ。お前がいると、みんな落ち着く。」
大地が笑いながら言った。
俺はうなずいた。
このチームは、俺の“声”と“行動”で動いている。
それが、今の俺の役割だ。
決勝戦。
相手は、去年の甲子園出場校。
強かった。俺たちも、全力でぶつかった。
——結果は、2対3。惜敗。
グラウンドに倒れ込んだ俺たちに、スタンドから拍手が送られた。
「塁……ありがとう。お前がいたから、ここまで来れた。」
鳴海キャプテンが、涙をこらえながら言った。
「高2で県1位なんて、前代未聞だ。
でも、それは——塁のおかげだ。」
その言葉が、俺の胸に深く刻まれた。
その夜、ノートにこう書いた。
「高2の夏、俺たちは県で1番になった。
でも、俺の夢は——まだ終わってない。」
第6章 キャプテンとしての夏
「塁、キャプテン就任おめでとう!」
春の新チーム始動日。
部室に集まった仲間たちが、拍手で迎えてくれた。
俺は、深く頭を下げた。
「ありがとう。俺がキャプテンになったからには、今年は——甲子園優勝しか見てない。」
その言葉に、誰も笑わなかった。
本気だって、みんなわかってた。
春の練習試合。
俺は、背番号10を背負ってグラウンドに立った。
でも、キャプテンになったからって、急に何かが変わるわけじゃない。
「塁、今日の守備位置、ちょっと変えてみたいんだけど……」
後輩の翔太が、遠慮がちに言った。
「いいよ。理由は?」
「大地と連携がうまくいかなくて……俺、セカンドの方が動きやすいかも。」
俺はうなずいた。
「じゃあ、試してみよう。失敗しても、俺が責任取る。」
その一言で、翔太の顔が変わった。
キャプテンって、こういうことなんだ。
“背中を預けてもらう”存在になること。
夏の大会が近づくにつれて、チームはひとつになっていった。
俺は、毎晩ノートを開いて、練習メニュー、仲間の動き、試合の反省を書き続けた。
「キャプテンは、誰よりもチームを知っていなきゃいけない。」
それが、俺の信念だった。
そして——甲子園予選、開幕。
初戦、快勝。
2回戦、接戦を制す。
準決勝、延長戦の末に勝利。
そして、決勝戦。
相手は、去年敗れた強豪校。
高2の夏、俺たちが県1位になったとき、唯一勝てなかった相手。
「塁、リベンジだな。」
大地が笑った。
俺は、静かにうなずいた。
「いや、これは“証明”だ。俺たちが、全国に行くべきチームだって。」
試合は、序盤から激しい展開だった。
1回裏、先制点を許す。
3回表、俺のタイムリーで同点。
6回裏、エラーで逆転される。
「落ち着け! まだ終わってない!」
俺は、ベンチから叫んだ。
仲間の目が、俺を見ていた。
このチームは、俺の“声”で動く。
9回表、2アウト満塁。
バッターは——俺。
「塁、頼む……!」
スタンドから、仲間の声が飛ぶ。
俺は、バットを握りしめた。
——初球、ストライク。
——2球目、ボール。
——3球目、インコース高め。
振った。
打球は、ライトの頭上を越えていった。
「走れ、塁!!」
俺は、全力で走った。
二塁、三塁——そして、ホーム。
「セーフ!!」
逆転。
俺たちは、ついに勝った。
「ホームラン学園、甲子園出場決定!!」
涙が止まらなかった。
高2の夏、あと一歩届かなかった夢。
高3の夏、俺たちはその夢を掴んだ。
俺たちは夢の舞台にきた。
これも、今までの努力のおかげだ。
でも、俺たちはここで終わらない。
絶対に甲子園で優勝だ!
甲子園本戦。
初戦、快勝。
2回戦、接戦を制す。
準々決勝、延長戦でサヨナラ勝ち。
準決勝、雨の中の激闘を制す。
そして——決勝戦。
相手は、去年に優勝した関西の強豪校。
全国屈指の打線を誇るチーム。
「塁、最後の試合だな。」
監督が言った。
俺は、うなずいた。
「はい。でも、俺たちの“物語”は、ここで完成します。」
試合は、まさに死闘だった。
1点を争う展開。
守備のミス、走塁の判断、すべてが勝敗を左右する。
そして、9回裏。
同点。
2アウト、ランナー三塁。
バッターは——大地。
「塁、俺、打つよ。」
「信じてる。」
——初球、ストライク。
——2球目、センター前ヒット。
「ゲームセット!! ホームラン学園、甲子園優勝!!」
歓声が、空を突き抜けた。
俺たちは、夢を叶えた。
表彰式。
俺は、キャプテンとして優勝旗を受け取った。
「塁、最高のキャプテンだったよ。」
監督が、涙を浮かべながら言った。
「お前がいたから、このチームは“心”を持てた。」
俺は、笑った。
「背番号10は、俺の“夢の証明”です。」
その夜、最後のノートにこう書いた。
「高2の夏、俺はキャプテン代理だった。
高3の夏、俺はキャプテンとして、甲子園を制した。
背番号10は、俺の人生そのものだった。」
最終章 背番号10のその先へ
甲子園優勝から数日後。
ホームラン学園の校門前には、報道陣と地元の人々が集まっていた。
「優勝おめでとう!」
「塁キャプテン、ありがとう!」
その声に、俺は少し照れながら頭を下げた。
でも、心の中では静かに燃えていた。
この物語は、まだ終わっていない。
卒業式。
俺は、最後の制服を着て、最後の校舎を歩いた。
教室の窓から見えるグラウンドには、後輩たちが練習していた。
「塁先輩、ありがとうございました!」
翔太、大地、そして新キャプテンの悠真が駆け寄ってきた。
「俺たち、来年も甲子園行きます。いや——連覇、狙います!」
俺は笑った。
「その言葉、信じてる。
でもな、甲子園は“夢”じゃなく、“覚悟”で掴む場所だ。
背番号に頼るな。心で戦え。」
悠真は、背番号10のユニフォームを握りしめてうなずいた。
「はい。塁先輩の“その先”を、俺たちが見せます。」
俺は、大学でも野球を続けることにした。
プロを目指すわけじゃない。
でも、野球を通して“人を育てる”道に進みたいと思った。
「将来は、指導者になりたいです。」
面接でそう言ったとき、面接官がうなずいた。
「君の背番号10には、物語があるんだね。」
俺は、静かに笑った。
「はい。でも、物語は——まだ続いてます。」
その夜、最後のノートにこう書いた。
「背番号10は、俺の“夢の証明”だった。
でも今は、“誰かの夢を支える力”になりたい。
この物語の続きを、後輩たちが描いてくれる。」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【最後にみなさんへ 筆者より】
きっと、努力すればその努力は少しは報われる。
努力は結果につなげます!!
あなたにエールを送りたくて、この物語を書きました!!
あなたに希望を与えられたなら、幸いです!!
これからも、あなたの頑張りを期待しています!!
【裏話】
『きっと、努力すればその努力は少しは報われる。』って書いたんですけど、本当は『きっと、努力すればその努力は必ず報われる。』です!!
『必ず』はあなたにプレッシャーを与えてしまうのではないかと思い、『少しは』にしました!!


