クールなパティシエが見せる笑顔は私にだけとびきり甘い
「いいんですか?」

「はい。よく来てくださっているので、特別ですよ?」

内緒話をするみたいに少しだけ声を落として言われ、思わず息を呑んだ。

「でも…可愛いすぎて食べられないです。
飾っとけないですかね」

私の言葉に目を丸くして、

「嬉しいお言葉ですが、食べてください。貴女に食べてもらうために作ったんですから」

彼はほんの少しだけ口元を緩めた。
私は思わず期待する。
もしかして――
けれど、その表情は一瞬で消えてしまった。

……おしい。もうちょっと。
あともうちょっとだったのに。
私は名残惜しく思いながらケーキの箱を受け取った。

「ありがとうございました」

「はい。またお待ちしています」

いつもの落ち着いた声。
私は箱を抱えたまま店をあとにする。
そう。
私には、ちょっとした野望がある。
――彼の笑顔をもう一度見ること。
一度だけ見たことがある。あれは仕事で理不尽なクレームを受け、ものすごくむしゃくしゃしていた日のこと。
甘いものでも食べて忘れようと立ち寄ったこの店で、ショーケースの中に並んでいた四号サイズのキラキラしたショートケーキのホールに一目惚れした。
そのまま購入を決めると、彼が尋ねてきた。

「お誕生日ですか? プレートはお付けしますか?」

「そうですね……」

私は少し考えてから答えた。

「理不尽なことはオサラバパーティーでも開催しようかなと思うので…」

その瞬間だった。

「ふふっ……ははっ」

彼が笑った。思わず息をのむ。
クールで、ほとんど表情を変えなそうな人なのに。
目元が柔らかく細められ、口元が大きく緩む。
そして頬には小さなえくぼ。
その笑顔があまりにも自然で、あまりにも素敵で。
――かわいい。いや、かっこいい。
でもかわいい。どっちだろう。
たぶん両方だ。
さっきまであんなにクールだったじゃないか。
なのに、そのえくぼは反則だと思う。
私が固まっていると、彼は我に返ったように小さく目を見開いた。

「あ……すみません」

そう言ってすぐに無表情へ戻る。
けれど耳が少しだけ赤かった気がした。
彼は手際よくホールケーキを箱へ入れ、蝋燭まで添えてくれた。

あの日からだ。
私が彼の笑顔を、もう一度見たいと思うようになったのは。
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