拳にモノを言わせますけどよろしくて?
  ✻


 思いがけず「先妻の肖像画」なんてものに遭遇したリュティシアは、かくれんぼにも身が入らず早々に自室へ引き取ってしまった。なんとなく気持ちが沈んでモヤモヤする。

(あれが、エディを生んだ人。フェルさまの妻だった女性……)

 ぐるぐると考えた。考えても仕方がないとわかっているのに。
 リュティシアは婚約破棄からフェリスベルトに拾われた身。今はとても大切にされているし幸せだと思う。なのに胸が苦しかった。

「リュティさま、お加減がすぐれないならハーブティでもどうぞ」

 ユーニスが知らん顔でポットを運んできてくれる。ふわりと香る湯気がリュティシアを包んだ。カモミール、それにレモングラスだろうか。心を落ち着けるためのブレンドだ。取り乱したことを完全に読まれていてちょっと恥ずかしかった。

「……ありがとう」
「とんでもないです。私のお仕事ですよ」

 そうなのだけど、きまり悪い。カップから立ちのぼる匂いを深く吸い込みながらリュティシアは気持ちを整えようとこころみた。

(そうね、私だって仕事として結婚するのだから。動揺することはないわ)

 自分に言い聞かせる。これは国同士が結んだ縁であり、フェリスベルトに先妻がいたことは承知の上で婚約したのに。その存在を目の当たりにして揺れてしまうなんて理不尽なことだ。エドゥアルドにはわけがわからなかっただろう。

(あ……エディが困っていたのよね。ちゃんと受けとめてあげずに置いてきてしまったわ)

 産みの母の肖像とリュティシアを見比べて、エドゥアルドは「お母さま」という言葉の在り方に迷うようだった。なのにリュティシア自身の気持ちが不安定で何も言えなかったのだ。〈育成〉失格だ。

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