拳にモノを言わせますけどよろしくて?
  ✻


 はれぼったい目を濡れた布で冷やしながら、リュティシアは思考停止していた。ソファに沈み込んだまま動けない。ユーニスはあきらめ顔で水の入った洗面器を置くと、そっと席を外してくれていた。

 どうしてあんなに泣いてしまったのか。リュティシア本人もよくわからないのだった。
 悲しかった。怒りを抱いた。どっちもだ。でもそれは、フェリスベルトにぶつけるべきではないもの。

「はあ……ガルディアに帰ろうかしら」

 ため息にまみれた。フェリスベルトは感情的な婚約者にあきれ果てただろうし、また婚約破棄かもしれない。
 ズルズルと倒れ伏して、リュティシアは拗ねる。

「もういやぁん……」

 もだえながら情けない声を上げたら、表でユーニスが何か言っているのが聞こえた。リュティシアにではない。扉の外へ対応しているのだ。
 フェリスベルトから何か言ってきたのかもしれない。怖くなった。冷たい縁切りの宣言とかだったらどうしよう。

「リュティさま、エドゥアルドさまですよ」
「え?」

 リュティシアはあわてて起き上がる。驚いたが、本当に居間に入ってきたのはエドゥアルドだけ。カティアすら連れていなかった。

「エディ……どうしたの、ひとりで来たの?」
「うん。お母さま、ないちゃったって……」

 エドゥアルドはおずおずと近づいた。ソファの隣によいしょと腰かける。そして手を伸ばすとリュティシアの頭をそうっとなでてくれた。

「お母さま、いいこいいこ」

 リュティシアが泣いたと聞き、なぐさめるために抜け出してきたのだろうか。たまらなくなってリュティシアは息子を抱きしめた。

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