拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 フェリスベルトは握っていた手を放し、真面目に自分の心を探る顔をした。

「いや……彼女のことは想い出であり、後悔なんだと思う」
「後悔……」

 その言葉にリュティシアの胸がズキンと跳ねた。誰しも後悔なしには生きられないものなのか。
 リュティシアにも取り返せない後悔があった。加護〈看破〉で見えたものの、間に合わず救えなかった友だちのこと。その親からなじられたこと。それはリュティシアの心に刺さる棘。
 フェリスベルトはそんな過去を知らない。だから小さく笑ったのは自分自身のことだ。顔を上げて庭の木々を揺らす風を聞く。

「……どうすれば助けられたか。子どもなど産ませなければ生きていたのか。そもそも私に嫁がなければ……ずっとそう考えていた」

 フェリスベルトの最初の結婚はそもそもが政略結婚であり、恋ではなかった。だが家族としての情はちゃんとあったし、そこは疑われたくない。情のない男に対してリュティシアは容赦ないと今回の反応でわかったから。
 そして同じく政略的婚約から始まった二人だったが、フェリスベルトはリュティシアに今――恋をしている。豊かな感情を振りまいて目が離せないこの人に、恋を。
 そのリュティシアは夕方の静かな空を遠く見やる。

「後悔は……一生ぬぐえませんもの」
「リュティにも後悔なんてあるのかい」
「それはもう」

 ふふ、と笑ったリュティシアは、昔のことではなくついさっきを例に出した。

「あんなに泣いてしまって、みっともなかったと後悔していましたわ」
「……みっともなくなどなかったよ。リュティの言い分は死者への思いやりと敬意に満ちていて納得できた」

 フェリスベルトはもういない人に心の中で謝る。

(私だけ――先へ進んでいくよ。すまない。今までありがとう)

 そして、リュティシアに告げた。

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