拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 しばらくして居室に通されてきたのは、暗緑色のローブに身を包んだ晶術師。ジェレミアスは静かに頭を下げた。

「――パルミロさま、お呼びとうかがいまして」
「ああジェレミアス。すまんがまた診てくれないか。たびたびで情けないことだが」
「そんなことはございませんとも。お悩みが重なることはあるものです」

 いたわしげな目をするジェレミアスは、あくまで患者の心に寄り添う姿勢を崩さない。それは晶化術に必要なことなのだろうと思いはするが、今のパルミロにとってはありがたかった。

「晶化術を施してもらうと一瞬楽になる気はするのだが……腹の底に黒いものが溜まっていくようで」
「さようですか……しかし一度で大きな結晶を吸い出すのは好ましくありません」
「わかっている。結晶は人の心だ。過ぎた術により廃人になってしまうこともあるのだったな」

 ジェレミアスは無言でうなずいた。それは晶化術の恐ろしい副作用。感情を取りのぞく術であるだけに、澱の量を見誤れば患者は心を失ってしまう。

「なので、少しづつになります。パルミロさまに何かあっては国の一大事でございますゆえ」
「うむ。仕方ないな」

 ジェレミアスはパルミロの手を取り、診察を始めた。腹に溜まっていると訴えられた黒い息吹――確かに感じ取れる。

(これは、おつらいでしょうなあ)

 ジェレミアスはそう思ったが口には出さず、痛ましげな目で晶化術の準備をした。用意していた符のうちの、わりと小さめのものを選ぶ。

「最近ひんぱんに施術しておりますので……大きく取りのぞくのは控えるべきかと。晶化術だけでなく、別の気晴らしも取り入れつつ参りましょう。運動するのもよろしいかと。最近は剣術などなさっておいでで?」
「いや……ジェレミアスでも手の施しようがないのか?」
「何をおっしゃいます。おやめください、そのような悲しいことは」

 さも心外だと諫める顔をしてみせて、ジェレミアスは座るパルミロの背中に回る。そして今日も二枚重ねの符を首の後ろに貼り付けて――晶術師の口の端はニヤリとした。


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