拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「――あ、そうだわ」

 いきなり手を取って口づけたのと、公衆の面前でおでこに口づけられたのは怒ってもいいかも?

「リュティ、入るよ?」

 ココン、と軽いノックがあって、ドアを開けたのはそのフェリスベルトだった。もうユーニスも案内すらしない。それでいいのだろうかとガックリしたが、そんなものかと諦めた。

「フェルさま。どうなさいまして? まだお仕事のお時間かと」
「ああ……ちょっと事故があってね。リュティにも知らせておこうと」

 そう告げたフェリスベルトは難しい顔だった。そんな表情をされてはリュティシアの胸だってざわつく。

「事故――どなたが、どうなさいましたの」
「――うん」

 リュティシアの向かいに腰をおろし、フェリスベルトは痛々しげだった。

「アデリア・モンサント侯爵令嬢の馬車が壊れてね」
「――!」

 リュティシアは二重の意味で息を飲んだ。
 馬車の事故。それは昔リュティシアが幼なじみを救えなかった時と同じ理由。思い出して胸がキュっと痛んだ。

「――リュティ?」
「ああいえ、驚いてしまいましたの――アデリアさまといえば」

 セミオンの新しい婚約者として内定した人だ。
 モンサント家の馬車が走行中に、車軸が折れたのだそう。前のめりに車体が倒れ込んだのだが運の悪いことに馬が暴れ、引きずられた車体が損傷。アデリアは外に投げ出されたのだとか。
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