拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 さすがにリュティシアもゾッとする。自分ならば〈剛力〉でどうにかできるかもしれないが、普通の女性なら。

「お怪我は?」
「……相当らしい」

 フェリスベルトのところにまだ詳細は上がってこないが、ひどい状態ではあるようだった。だからリュティシアに一報を伝えに来た。

「もしも亡くなられるようなら……でなくとも、見て取れるような傷が残ったら婚約は辞退されると思う」
「……なんてこと」
「そうなればセミオンがまた荒れるだろう。今後の動きによってはリュティと顔を合わせないようにはからうよ。とりあえず王宮内の廊下では気にしておいてくれ」

 フェリスベルトはあくまでリュティシアを守るため、この事故の報を伝えたのだった。
 セミオンがアデリアのことをどう感じているのかは知らない。だが自分からダンスに誘い、婚約に持ち込んだのだから好意的に思っているのは当然だ。その相手から婚約を破棄されるとしたら、さすがに運命に怒るはず。前の因縁があるリュティシアに出くわしたら八つ当たりの一つや二つ、しかねない。

「セミオンさまを見かけたら逃げろとおっしゃるのね」
「平たく言えばそうだ」

 今回の件、リュティシアはまったく関係ない。だが不条理な目にあった人からすると、誰彼なく非難して苦しみをぶつけたくなるもの――過去の事故でリュティシアは思い知らされていた。

「リュティ?」

 思い出に沈んでしまったリュティシアのことをフェリスベルトは引き戻した。リュティシアが泣きそうな顔になったからだ。

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