拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 フェリスベルトが隣にきて、震える肩を抱いてくれる。それにも気づかない様子でリュティシアは言いつのった。

「私が迷わなければ、助けられたかもしれない。城下に残っていたその子の父君は号泣しながら私に言いましたわ。どうして助けてくれなかったんだ、人殺し、と」
「リュティ!」

 ぶつけられたという強い言葉にフェリスベルトは声を荒らげた。

「それは違う。リュティは精一杯やった」
「でもそう言いたくなるのもわかるでしょう? 妻と娘が死ぬのを知っていたのに何もできなかった人がそこにいたら、責めてしまうわ……」

 よみがえった記憶だけでリュティシアは打ちのめされていた。フェリスベルトも返す言葉がない。
 もし――もし、前の妻が死ぬとわかっていたら、子を産ませたか? できるわけない。リュティシアがずっと抱えてきたのは、そういう類の後悔なのだ。そんなもの、フェリスベルトでも耐えがたく思う責め苦。

「私わからなくて……どうすればよかったのか。だからもう〈看破〉なんていらない、と泣きましたのよ。そうしたらおかしなことね、半端にしか使えなくなって」

 ふ、ふふ、とリュティシアは自分をあざけった。
 そんなことがあってリュティシアの〈看破〉は今のようになったのだ。本当に危ない時にしか働かない、よくわからないものに。
 泣きながら笑うリュティシアを、フェリスベルトはきつく抱きしめる。その痛みでやっと我に返ったリュティシアは、婚約者の腕の中でぼんやりした。

(私――こんなことをフェルさまにぶつけて。また泣いてしまったわ。情けないったら)

 どうしてフェリスベルトには甘えてしまうのか。この人がとても大人だからか。それとも――痛みをわかってくれそうだからかもしれない。

「リュティ」

 抱きしめる腕をゆるめることなく、しかしフェリスベルトの声は優しかった。

「リュティ、愛してる」

 ささやかれてリュティシアの力が抜けた。


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