拳にモノを言わせますけどよろしくて?
  ✻ ✻ ✻


 アデリア・モンサント侯爵令嬢は命に別状なく助かった。しかし具合は悪く、どんな怪我なのかも公表されていない。動かせるようになったら田舎で保養するのだとか。もちろんセミオンとの婚約内定は辞退となる。

「――そうか。なんとも痛ましい。セミオンには残念なことだな」

 報告を受けた王太子パルミロは、一見すると沈鬱な様子だった。
 一度ならず二度までも婚約が壊れた弟王子。兄として哀れに思う――そんな態度を取っていたのだが、人払いした後には薄っすらと笑った。

「なんと運の悪いやつだ。ああ、いや――」

 とうとう抑えきれず、ハハ、と声を上げて笑い出す。腹の内に真っ黒な泉が湧くような気がして止まらなかった。

「自業自得か? 兄に対抗しようなどと不遜なことを考えるからいけないのさ」

 パルミロより早く子を持ち、王位をかすめ取る気だったのだろうと考えた。そして事実、それは邪推ではない。
 根拠はないが、きっと天罰だ。そう信じたパルミロは気をよくして執務に取りかかる。
 ――しかしその微笑みは何かに取り憑かれたように見えた。


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