拳にモノを言わせますけどよろしくて?
  ✻


 そしてセミオンの方は、モンサント侯爵からの手紙に目を通し――握りつぶした。憤怒の表情で机を叩く。

(――役立たずな女め! せっかく妃にしてやろうと考えたのに!)

 まずそう思ったセミオンは、アデリアの怪我など気にもしていない。腹にドロドロしたものが黒く渦巻いて体のすべてを染め上げていくようだ。

「ううっ……!」

 頭がグラグラする。怒りのあまり憤死するのではと怖れた。

「くそっ……ジェレミアスを呼ぶか……」

 ベルを鳴らし、使いを出させる。待つ間で必死に呼吸をととのえた。あまりみっともない様子は見せられない。

「――失礼を。おおセミオンさま、なんとも残念な報を耳にしまして。さぞお力落としのことと推察いたします」
「ああジェレミアス」

 額を押さえ耐えていたセミオンは、哀れっぽく訴える。

「どうしてだ。何もかもうまくいかない。私が何をしたというんだ」
「セミオンさま、おつらいことでございますなあ」

 ジェレミアスは静かに手を取りセミオンの内側を診た。アデリアへの同情などは一切口にしない。セミオンは自分のことしか念頭にないとわかっているから。
 だってそう仕向けているのは――ジェレミアス本人。

「お怒りを多少取り除けば、お楽になりましょう。さあさあ、晶化術にお任せを」
「うん、頼む」

 ジェレミアスが取り出した符は、燃える怒りを結晶化する陣が描かれたものだ。
 しかしその裏に、もう一枚符が重なっている。以前パルミロにも施していた二重の術と同じものだ。
 その陣は輝く黒い粉が練り込まれたインクで描かれている。陣形は――晶術師が見ればひと目でわかる、反転晶術のものだった。


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