拳にモノを言わせますけどよろしくて?
――あれから数日、リュティシアはフェリスベルトに会わないよう頑張っていた。そりゃ婚約者なのだから避け続けるにも限度があるが、できる限り抵抗して。
だがとうとう失敗した今、モジモジとうつむく。
「……あの。ええとフェルさま」
「あんな状態のリュティを放り出してすまなかったね。だいぶ元気になったようで安心した」
非は自分にあったとさりげなく主張し、フェリスベルトは立ち上がった。用意してあった薄い小箱を棚から取ってくる。
示されたソファに向かい合い、リュティシアの心臓はほぼ限界だった。フェリスベルトの顔。声。体。すべてに対して落ち着かない。
(私あの時フェルさまに抱きしめられて……でも心地よくて……なんだかいい匂いがしたし……ああ、そんな風に思うなんてはしたないっ!!)
経験したことのない感情に翻弄され、リュティシアは大混乱。しかしフェリスベルトは、ややきまり悪そうにしながら微笑んでくれた。
「これを、リュティに」
「……なんです、の?」
「開けてごらん」
うながされてリュティシアは小箱を開ける。そこに収まっていたのは――革の手袋だった。女物で、青灰色に染められている。
「手袋――?」
夏を迎えた今なのに、どうしたことか。リュティシアは首をかしげる。フェリスベルトはおだやかな瞳だった。
「リュティがゴロツキを殴っても怪我しないようにだよ」
「なぐ……っ、いえそんな、私はもう」
これ以上の暴力沙汰を起こすつもりなどない。リュティシアはそう思ったのだが、フェリスベルトは大真面目だった。