拳にモノを言わせますけどよろしくて?
  ✻


 そして足を踏み入れた王立結晶院は、ぱっと見ごく普通のお役所だった。
 全国各地の晶術院から活動報告書が届き、晶術師の給与が計算され支払われ、採集した結晶の輸送手配が行われる。晶術師は数年ごとに研修を受けなくてはならないし、地方から中央への抜擢もその結果次第。組織の運用は公明正大に行われている。

「……もっと怪しい雰囲気の所を想像していましたわ」

 リュティシアがもらした感想に、案内役の中年晶術師は笑ってくれた。

「晶化術は魔法ではありますが、表はこんなものです。もちろん実験室は使用中閉め切って、外に危険が及ばないようにしますが……」
「うん、あそこもおどろおどろしくはないな」

 結晶を反転させる実験に立ち会ったフェリスベルトは、その中も知っている。どちらかというと殺風景で、余計なものがない部屋だ。
 隣国から来た婚約者に不正確なことを教えられない、と言い訳してフェリスベルトは案内を頼んでいる。ごく基礎の話から始めてあちこち見て回るつもりなのだ。

「晶化術にも反転晶術にも、最低限必要なのは陣を描くインクと紙だけ――でいいのだったか?」
「さようでございます。ただ、その製法は晶術師以外には秘密となっておりまして」
「まあ。やっぱり内緒の部分はありますのね」

 リュティシアは夢見る顔をしてみせた。

「私にとってはとても不思議な魔法ですのよ……人の体から結晶が採れるだなんて」
「はあはあ。王女殿下はまだ晶化術をお受けになっていらっしゃいませんか。ええと、フェリスベルト殿下もしばらくご利用はなかったような……」

 術師は診療記録の収められた棚に案内した。医療と同じように個人の履歴が追えるようになっているのだ。

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