拳にモノを言わせますけどよろしくて?
次に向かったのは倉庫だった。生成された結晶を見てみたいというリュティシアの願いに応えてのことだ。
普通に採集された結晶は保管庫で厳重に管理されているのだが、倉庫には古い研究サンプルが眠っている。それならば閲覧可能だそう。
「そんなにしっかり保管されて……大変なお仕事ですわね」
「おそれいります。結晶は資源でもありますし、悪用されてはならないものですので」
廊下を歩きながら静かに頭を下げられたが、フェリスベルトは少々踏み込んでみた。
「しかし燭台を落としたのは〈腐〉の結晶だった。あの出どころはわからぬままか?」
「は。大変不甲斐ないことでございますが……ぶっちゃけますと、術師個人が施術の段階で不正を働けば横領は可能だと思うのですよ」
案内役は通る人々をはばかり小声で訴えた。フェリスベルトは眉をひそめる。
施術は晶術師が独りで行うものだ。患者の家族などがその場に立ち会うことも多いが、何をしているかなど素人にはわかるまい。改ざんした記録を結晶院へ提出し、結晶の一部をちょろまかすことは理論上可能だと言われてフェリスベルトはうなった。
「それは……確かに。制度的に改善の指示を出した方がいいだろうか」
「微妙なところです。複数人で診療にあたるとなると人員も足りず、難しくて」
「ふむ。ジェレミアスにでも相談してみるか……」
「ジェレミアスさまなら、倉庫にいらっしゃいますよ!」
すれ違いざまに教えてくれたのは、凍結機械開発にたずさわっていた若手晶術師だった。何やら重そうな書物を何冊も抱えている。