拳にモノを言わせますけどよろしくて?
倉庫へ行ってみたら、そこにもうジェレミアスはいなかった。だが古い結晶サンプルはたくさんあり、リュティシアは興味深くながめる。だが、手を出すのは遠慮した。
「反転晶術……ですか? それを掛けていなければ、触れても問題ないのだと聞きましたけど」
「さようです。まあ好んでさわる一般の方はいらっしゃいませんかな。これも元は、見知らぬ誰かの心ですし」
「……ですわね」
そう聞くと薄気味悪さを感じる。今のリュティシアが触れたいのはフェリスベルトの心だけ――と浮かれたことをつい考えてしまい、うつむいてごまかした。
いくつかの結晶を見比べたリュティシアは、その色の違いに気づく。
「ずいぶん違いがあるのね?」
「いえいえ、そうでもありませんな。ここにあるのは術が細分化する途中のものですので。今は研究が進み、さらに種類が増えました」
「ああそうか、さっきの者も〈渇望〉と言っていたろう? それだけを純化して集めたら反転させた時の作用が絞れるし、除去される患者の負担も少なく済むんだ」
フェリスベルトの説明は的確だ。そして質問も追加する。
「細分化というのは、魔法の陣を描き分けることでやるのだったか?」
「その通りで。さすがフェリスベルト殿下はよくご存知ですなあ。あれら若いのの実験によくお付き合いくださってありがたいことです」
フェリスベルトは実務・研究型の人間。兄王の補佐に回ってばかりの人生は、日が当たらず不幸のように思われるかもしれない。だがこれは完全に本人の資質に合致する生き方なのだった。
倉庫を後にしたリュティシアたちは、さらに結晶保管庫の管理官や、各地の晶術院をまとめる監査室なども訪れ話を聞いた。
しかし不審な態度を取る晶術師などひとりも見つけられずに終わったのだ。