拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「では、まず厩舎へご案内いたしましょう」

 しかし歩き出した時、後ろでざわめきが起こった。騎士たちが訓練で使っている広場の方だ。「おやめください!」「お二人とも、どうぞ落ち着いて!」と、うろたえる声も聞こえる。

「何かありまして?」
「そのようです……失礼、しばしお待ちを」

 団長は踵を返した。もれ聞こえた言葉からは、高位の者が揉めたように思える。ここは騎士団をまとめる立場の団長が行くしかなかろう。
 しかし――そこで剣を手に向き合っている二人は、団長でも制止しづらい人物。王太子パルミロと第二王子セミオンだったのだ。

「ひっ……!」

 団長を追いかけてきたエドゥアルドが悲鳴をあげる。思わずリュティシアの腰にしがみついたのも無理はなかった。二人はリュティシアでも後ずさりそうなほど、暗くうつろな瞳で相対していた。

「で、殿下! 剣をおろしてくだされ!」

 団長が厳しい声を発した。なんの防具もなしに剣の稽古をしてはならない。そんな規則を無視して王子二人は切っ先を向けあっている。いったい何があったのか。

 ガキ――ンッ!

「殿下!」

 周囲の声が耳に入らないのか、二人は剣で斬り結んだ。
 一合。二合。キンッ、ガンッと響く音は鈍く、重い。おそらくどちらも手加減などしておらず、このままでは――最悪の結末が来るだろう。
 エドゥアルドが目をつぶり、リュティシアのドレスに顔をうずめた。リュティシアは息子を抱きしめる。子どもが見るものではなかった。

「不敬もやむを得ん! お止めせよ!」

 団長が命じる。弾かれたように騎士たちが動いた。
 しかしその瞬間、振り抜いた王子たちの剣先から赤いものが散る。

「うっ……あああっ!」
「ぐおっ……!」

 パルミロは目を押さえて倒れ込んだ。手指の間から血が流れる。伏したセミオンの額も割れているのか、顔が赤に染まっていた。

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