拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 ――だが踏み込んだ倉庫はもぬけの空だった。

「くそっ、逃げられたか?」

 踵を返すフェリスベルトの肩を、抱かれたままのエドゥアルドがキュッとつかむ。その声が怯えていた。

「あそこ、くろい」

 エドゥアルドが指さすのは、奥の壁だ。首を縮こまらせながら嫌そうに見つめている場所には何もないのだが――。

「隠し扉でもありますの? そういえば前に来た時も、ジェレミアス殿は見当たらなくて……」
「そうか! この先にまだ部屋が……?」

 それとも隠し通路か。すでに王宮から出てしまっていたら目も当てられない。

「どのあたりだ、エディ」
「あのね、そっち」
「いや、おまえは手を触れるな。その黒いのが消えてしまったら手がかりがなくなる」

 息子の指す壁を探っていき、フェリスベルトが一つの石を押した時、ゴトンと手ごたえがあった。思いもしない軽さで壁が開く。

「本当に隠し扉……!」
「地下への階段だぞ。だが結晶灯火で明るい……ジェレミアスめ、こんな所があったとは」

 足を踏み入れようとして、フェリスベルトは迷った。リュティシアとエドゥアルドはここに置いていった方がいいのではないか。だがリュティシアは首を横に振る。

「私の〈看破〉は働いておりませんの。だから危険はありませんわ」
「そうなのか……?」
「ええ。一緒に参りましょう」

 リュティシアは自信満々に言い切った。
 本当はちょっと不安だ。〈看破〉は無くなったのかもしれない。フェリスベルトに過去を吐露し、「それでいい」と言ってもらえて胸のつかえがおりたから。
 でもここで待っているなんて嫌だ。フェリスベルトに何かあったらどうする。それに安全な後方で控えているなんて〈剛力〉姫の名折れというもの!

「さあ、行きますわよ!」

 真っ直ぐに見つめられて、フェリスベルトは苦笑いでうなずいた。

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