拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「――ジェレミアス、母上のところに顔を見せてくれたのか」
「ご機嫌うかがいをさせていただきました。目立ったご不調はなく、治療は必要ございません。ご安心を」
 
 その声にはリュティシアも聞き覚えがあった。広間で結晶灯火から人を遠ざけていた壮年の男だ。

「晶術師の方ですわね。先日はお声がけありがとう」
「おお、王女殿下は私のことを覚えておいでで」

 ジェレミアスは驚きをもってリュティシアを見つめる。フェリスベルトの婚約が調ったと聞いて、実は気をもんでいたのだが。

「晶術師のローブと、そのお声。もちろんわかりますわ」
「さようでございますか……私は王立結晶院で働かせていただいている者でして」
「また謙遜しているな。リュティシア、このジェレミアスは結晶院の副長官なんだよ」

 フェリスベルトが口添えする。今エリセテの元を訪れていたというし、ジェレミアスは晶術師の中でも高位なのだとリュティシアにもわかった。

「晶術師たちを束ねるお立場でいらっしゃるのね」
「いえいえ、長く勤めているというだけで……もうエドゥアルドさまと打ちとけたご様子、きっとエリセテさまもお喜びでしょう」

 ジェレミアスは手をつなぐ義理の母子に目を細めた。そっと脇へ道をゆずられ、リュティシアは会釈し歩き出す。
 少し離れてからジェレミアスはしみじみとつぶやいた。

「加護の国から来た姫君……なかなかに聡明なお方のようだ。きっとフェリスベルトさまとエドゥアルドさまを幸せに導いてくれるだろう」

 これから家族となる三人を見送るジェレミアスのまなざしは、とてもやわらかく揺れていた。


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