拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 ジェレミアスが王宮の表側、宮廷の各部署が置かれた方へ出ていこうとした時だった。不意に後ろから呼びとめられる。

「ジェレミアス、尋ねたいことがあるのだが」
「パルミロ殿下」

 ジェレミアスは慌てて礼を取る。そこにいたのは王太子パルミロ。先日燭台の直撃からリュティシアのおかげで生還した人だ。
 あたりに人がいないのを確認しつつ、声をひそめるパルミロの表情は深刻だった。

「セミオンの具合はどうだ。ずいぶんと心が揺れていたようだが……」
「だいぶ回復なさったと思われます。ご安心を」
「そうか。あれは甘えん坊なところがあるが、人前で攻撃的な態度を取るようなやつじゃなかった。どうしたのかと心配している」
「ご結婚という人生の一大転機にあたり、不安定になることはままあることかと。きっと責任感がお強くあられるのでしょう」

 パルミロは弟王子のことを真剣に案じているらしい。宮廷の噂では王太子の地位をねたんだセミオンが兄を狙ったなどともかまびすしく言われているが、パルミロは信じられなかった。だが懸念は抱いている。

「……フロリアーナを巻きこんでしまったのが怖ろしくてな」

 それは王太子妃のこと。この夫婦ももちろん政略として始まったのだが、とてもうまくいっている。パルミロは自分よりむしろ妻の身を案じていた。

「フロリアーナは……マラカナン侯爵家の出だ。まさかとは思うがモンサント侯爵が何か」
「殿下」

 いっそう低めたパルミロの声を、ジェレミアスは慌ててさえぎった。それは政争につながる発言となる。
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