拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 いつも地味にしているが、これでもフェリスベルトは王弟殿下だ。婚約者と共に旅を、と声を発すれば家臣たちがザザッと動く。
 主だった使用人は主人家族のお世話のために同行しているし、この船も貴賓室が使えるようになっていた。だがリュティシアは都から田園へと変わっていく景色に夢中。船室に引っ込むのはかなり後になりそうだ。

「こんなに開けた空、見たことがない……」

 風を見上げてうっとりと微笑む横顔にフェリスベルトは目を細めた。

(リュティシアはいつも表情をクルクル変える。見ているとこっちまで楽しくなるな)

 フェリスベルトも空を見てみる。初夏の青。遠いその色に気づいたのは久しぶりのような気がした。この河をたどるなんて何度もしているのに。
 深く息を吸って、フェリスベルトは現実に戻る。

「……私は船の技術者と話してくるから。エディをよろしく」
「ええ。いってらっしゃいませ」
「ぼく、おりこうにしてる!」

 それは信じていい言葉なのかわからない。実はエドゥアルドだって王都を出るのは初めてで、船の中を探検してみたくてたまらないのだ。

 この船は最近建造されたもので、動力が風だけではない。結晶機関を搭載する実験船なのだった。風が弱くても河をさかのぼれるかどうか、帰路が検証の本番となる。そんな船だからこその、王弟の視察。
 しかしそろそろエドゥアルドにも貿易や新しい技術に触れる機会を与えたい。リュティシアにアルヴェインを知ってほしい。さまざまな目論見があっての旅だ。

「おふね、みてきていい?」
「いいわよ。でも働く皆さんの邪魔にならないように気をつけること!」
「はあい!」

 これは重要な注意だった。エドゥアルドがウロウロすると、その後ろを使用人たちがゾロゾロついて歩かねばならないから。あまり狭い所には行かないでほしい。
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