拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「お父さま!」
「お帰りなさいませ……あら? それで合っているのかしら、この場合」

 ん? と引っかかった顔で天井を見上げられ、フェリスベルトは吹き出した。眉根を寄せて考える顔も可愛い――と思ってしまい、自分に驚く。

「まあいいんじゃないか。今戻った――いや、うちではないし、やはりおかしな感じだな」
「ですわよね」

 笑いこけながらリュティシアが手招く。眼下には夕陽に照らされる海があった。目を細めて遠くを見やり、リュティシアはうっとりつぶやく。

「お待ちしていましたの。この景色、フェリスベルトさまにも見てほしくて」
「――美しいな」

 正直に言えば、フェリスベルトは何度もこの海をながめている。夕陽も。
 しかしここからの風景がこんなに綺麗で安らかに思えたことはなかった。潮を含んだ風がリュティシアの蜂蜜色の髪を揺らす。夕陽の精がそこにいるように思えた。

「港から見上げた灯台が同じ高さなんですもの……町はちょっと向こう側ですけど、のぞき込めば少しだけ見えましてよ」
「やめなさい」

 ベランダから乗り出してみるリュティシアの体を、フェリスベルトはとっさに抱き戻した。腕の中に入れられてしまいリュティシアが驚く。目を見開かれ、フェリスベルトは自分のしたことにうろたえた。スルリと手をほどく。

「あ……危ないだろう」
「……ええ、そう、ですわね。ごめんなさい」
「ほら、昨日はエディが階段を落ちかけているんだよ。リュティシアまで落っこちるのは勘弁してほしい」

 言い訳しながら室内を振り返るとユーニスが大きくうなずいていて、フェリスベルトは力を得た。

< 54 / 170 >

この作品をシェア

pagetop