拳にモノを言わせますけどよろしくて?

8 この気持ちはなんでしょう

  ✻ ✻ ✻


 一行が夕食をとったのはフェリスベルトに割り当てられた部屋の食堂だった。王弟殿下ともなると執事と護衛も宿泊可能な続き部屋にいるものなので。
 しかし婚約者でしかないリュティシアは、食事が終われば侍女ユーニスとともに自室へ戻る。エドゥアルドは養育係のカティアに任せられて子ども部屋だ。ひとりで寝室に引き取ったフェリスベルトはフウ、と窓の外をながめた。もう海が暗い。

「リュティシア――」

 不思議な気分だった。国のためにと成り行きで婚約を引き受けた相手なのに、近ごろとても大切な人のような気がしてきたのだ。
 エドゥアルドのためにと言いながら、今はもうフェリスベルト自身がリュティシアと過ごす時間を楽しみにしていると認めざるを得ない。
 だってリュティシアはそこらのご令嬢のように堅苦しくかしこまったりしない。丁寧で優しい口調ながら、どことなくイタズラだ。

(何をしていてもリュティシアならどう思うか、リュティシアはどんな風に笑うかを考えてしまう)

 それはもう――恋ではなかろうか。

 だがそこでまた、フェリスベルトの胸は痛むのだった。家族としての愛はあったけれど恋にはならなかった人のことを想って。
 おとなしくて真面目で楚々と微笑んでいた前の妻。大きくなる腹を苦しそうに抱えていたのをフェリスベルトは真剣にいたわれていたか自信がない。男の身で何ができたかといえば何もできなかったのかもしれないが、思い出すと後悔にさいなまれた。

「これに関しては、ジェレミアスを頼りたくはない……」

 この痛みを吸い取って結晶にしてしまえば楽なのだろうか。でもそれでは無責任な気がする。これはみずからの力で抱え、飲み込み、乗り越えて生きるべきこと。

(リュティシアへきちんと向き合っていければ。もう私はきっと――)

 過去に苦しまず歩いていける。救えなかった命のことを郷愁の中に眠らせて。

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