拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 のんきな女主人にユーニスは喝を入れる。

「これ、婚前旅行ですよ? ま、まあまあ、そりゃ間違いなんて起こるはずないんですけど、フェリスベルトさまにはここでリュティさまのことを女性として見直してもらわないと! いいですか、お二人はこのままじゃずっと『ご両親』ですっ」

 プンスカしながら言われてリュティシアはげんなりした。別にそれでもかまわない。フェリスベルトは尊敬できる男性だし隣にいて嬉しいのは本当だが、「ご両親」をやっているのはとても楽しいから。

「ユーニスだって私と同い年だけど、お嫁入りしてないじゃない……」
「私はいいんです、一介の庶民ですから。そうですね、リュティさまがしっかり王弟妃殿下におさまったら縁談でもお世話してください」
「ええぇ……私この国で伝手なんてないわ……」

 ぶつぶつ言った文句を無視してユーニスはリボンを取り出した。帽子をかぶっていても愛らしい髪形を思案するのだ。

(そんなに頑張らなくても)

 リュティシアはあくまで自然体。いや、いちおう控えめにしてはいるのか。護衛の誰かに組手を申し込んだりはしていない。
 だってフェリスベルトにまで「乱暴な馬鹿力女」と言われたら――。

「さすがに泣くわね」
「なんですか?」
「なんでもない」

 うっかり漏れた自分の心をユーニスにごまかしながら、リュティシアはがくぜんとした。泣く? 泣きたくなるほどフェリスベルトに嫌われたくないのか、自分は。
 いやたぶん、立て続けの婚約破棄はさすがに外聞が悪いとか、そうなるとエドゥアルドとお別れになってしまうとか、そっちが理由だと思うけど。

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