拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「これは……何? ガラスではないけれど」
「お手を触れませんように!」

 遠くから鋭い声が飛んだ。その主は壁際にひっそりと立つ、暗緑色のローブをまとった壮年の男だ。

「それは晶化術(しょうかじゅつ)の結晶を使った結晶灯火(けっしょうとうか)です。障りがあってはいけませんので、始末は我ら晶術師(しょうじゅつし)が」

 障り。晶術師。
 そう聞いてリュティシアは納得した。微笑んで一歩下がってみせる。
 晶化術とは、アルヴェインで発達している魔法のこと。この結晶は――人々の苦しみを治療した末の副産物だと学んだことがある。

 晶術師たちが片付けのために動き出したことで広間にざわめきが戻った。
 めでたい顔合わせの席で事故が起こり、主役である姫君が王太子の怪我を防いだとなると大変な事態だ。

 ――だがその姫の動きに巻き込まれ跳ね飛ばされ、吹っ飛んでコケた王子がそこにヘタり込んでいるわけで。
 列席の人々の目はセミオンの醜態を見ないように泳いだが、口は止まらなかった。

「……セミオンさまは武道など何もたしなまれなかったのか?」
「女性がちょっと当たったぐらいであんな風に転ぶとは……」

 ささやきが起こるが、〈剛力〉を発動したリュティシアの肩ならば「ちょっと当たった」では済まない。この言われようはセミオンが可哀想だ。
 だがそんなこと、アルヴェイン側は誰も知るはずもなく――。

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