拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「――き、貴様っ!」

 叫んだのはセミオン王子。床から立ち上がると、ワナワナと震えつつリュティシアをにらむ。

「私を突き倒して走るとは、どういうことだ!?」
「申し訳ありませんわ、セミオンさま。そうでもしないと間に合わなくて」
「うるさいっ……こ、婚約破棄だ! おまえのように乱暴な馬鹿力女と夫婦になどなれるものか!!」

 わめき散らす婚約者の姿を見つめ、リュティシアは息を飲んだ。

「こん……婚約、破棄?」
「そうだ!」

 青ざめるリュティシアの前までカツカツと靴を鳴らし歩いてきたセミオンは、隣国から遠路到着した婚約者に人差し指を突きつける。

「夫となる男を跳ね飛ばすような女、願い下げだからな!」

 それは王太子夫妻の緊急事態につき、大目に見てほしいところ。だがセミオンは自分の失態をごまかすことにしか意識が向いていない。

「そん、な……」

 あんまりな言葉を聞いて目まいがした――と見せかけて、リュティシアは手を額に当てた。そしてクラクラよろめいたフリをしてセミオンの方へ倒れかかる――。

「ぶへっ」

 セミオンはふたたび床に沈んだ。彼の鼻へ盛大に裏拳を叩き込みつつ、リュティシアが倒れ伏したからだ。
 ――もちろん、演技で。

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