拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 リュティシアはその後、延々続く貴族たちの挨拶は控えめにやり過ごすことにした。
 国王を筆頭に王族たちと言葉を交わす人々の列。笑顔で流しつつ、観察し記憶することに注力するのだ。今後王弟妃としてやっていくための下調べとしてちょうどいい。
 しかしそこに現れたモンサント侯爵という人には引っかかりを感じた。社交界デビューしたばかりだという次女を連れて悠然と話す大貴族は――、

「王太子妃殿下におかれましても、ご懐妊の報をお待ちしておりますぞ」

 にこやかにのたまったのだ。底意を感じる言い方で、リュティシアはさりげなく注視する。

「我が長女はパルミロ殿下にはご縁がありませなんだが……嫁いで早々、子宝に恵まれまして幸せにしておりますので」

 モンサント侯爵の令嬢は王太子妃フロリアーナと妃の地位を争い、負けたのだとフェリスベルトが耳打ちしてくれた。その後すぐに公爵家と縁談がまとまって結婚し、もう子を生したと。
 つまりこれは、世継ぎを得られずにいる王太子夫妻への当てつけなのだ。うちの娘を選んでおけばよかったのにという。侯爵は余裕しゃくしゃくで笑ってみせた。

「次女の方も嫁げる頃合いとなりました。我が家は多産の家系、孫が増えるのが楽しみですわい」

 そう言い放つ目は第二王子セミオンへ秋波を送っている。侯爵は、リュティシアと破談したセミオンの婚約者として次女を売り込むつもりなのだった。

「ほう……」

 セミオンが小さく声をもらす。
 父侯爵の一歩後ろで恥ずかしそうに微笑む娘は愛らしく控えめ。セミオンにとっては好ましい雰囲気だ。王子へ嫁ぐにふさわしい家格もあり、フロリアーナ妃の実家マラカナン侯爵家への牽制としても釣り合いの取れる話になる。

(あらあら面倒くさいわね)

 リュティシアは目の前で展開される政治劇にあくびをかみ殺した。
 貴族社会では、もったいぶって回りくどい言い方が普通。しかし「言いたいことがあるなら、さっさとおっしゃればよろしいのに」と思ってしまう。
 しかしリュティシアだって、今後は「まずいことになったら拳で解決」とはいかなくなる。結婚に際してその点はつらいところだった。

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