拳にモノを言わせますけどよろしくて?
 その時セミオンがフロアを横切った。ツカツカと向かった先にいるのは、先ほど挨拶で王太子夫妻に皮肉を言ったモンサント侯爵――の次女の前。

「私と踊ってくれるか?」

 大広間にざわめきの波が立つ。
 隣国の王女との婚約を破棄し謹慎していた王子は、自分で新しい婚約者を選ぶつもりか。それとも王の指示があっての行動なのか。問題を起こした相手のリュティシアがこうして結婚の日取りを発表し祝福されているのだから、セミオンの方もそろそろ許されてしかるべきではある。

「わ……わたくしでよろしければ。光栄でございます殿下」

 突然の指名にややうろたえたアデリア・モンサント侯爵令嬢は、それでも嬉しそうな笑みを浮かべてセミオンの手を取った。しずしずフロアへ歩み出る。
 ちょうど一曲目が終わり、リュティシアはフェリスベルトに礼をしているところだった。入れ替わるセミオンとアデリアにもゆったり会釈する。が、セミオンからは無視された。

「もっと踊るかい?」

 取りなすようにフェリスベルトはささやいた。だがリュティシアは首を横に振る。

「二人目に踊りたい殿方は決めてありますの。端っこにいるから迎えに参りますわ」
「え――誰と踊るつもりだ?」

 チリ、と胸がこげつくのを感じながらフェリスベルトは平静をよそおう。リュティシアはスルリと腕をとくと軽やかにエドゥアルドのところへ駆け戻った。

「エディ、私と踊ってくださる?」
「お母さまとおどっていいの? やったあ!」

 可愛らしい歓声が音楽にまぎれて響く。フェリスベルトは一瞬嫉妬した自分のことを殴りたくなった。

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