拳にモノを言わせますけどよろしくて?
「ぼくとおどっていただけますか、お母さま」
「ええ、よろこんで」
あらためてフロアの端で一礼し向かい合うリュティシアとエドゥアルド。背が違いすぎるのできちんと組むことはできないが、両手をつないでステップを踏み始める。その微笑ましい姿は人々の視線を集めた。
(……あの馬鹿力女め)
注目されるリュティシアとエドゥアルドの陰でひっそり踊ることになったセミオンは、忌々しさを無表情に隠す。プライドにかけて王子としての優雅さを崩すわけにいかなかったのだ。
「モンサント侯爵家のご令嬢……なるほど」
そう独り言ちたのは晶術師のジェレミアスだった。
また事故が起こらないか、警戒するために晶術師が数名配置されている。この大広間は以前に事件があった広間よりも大きく、参会者も多かった。天井の燭台はすべて事前に点検してあるが念のためだ。
彼らを束ねる立場だったジェレミアスはつらつら記憶をたどる。モンサント家には子息子女が多く、さらに結婚した者はすぐに子宝に恵まれていた。なるほど、王太子妃をあおるわけだ。
「……なんとも嫌みなお方であることよ」
ため息をついたジェレミアスはスルリと大広間を抜け出した。王立結晶院の置かれる区画へと戻っていく。
華やかな光と音楽から遠ざかって廊下を歩き、結晶院へ。舞踏会が行われていようが関係なく働いている者たちはいて、普通に頭を下げられた。だが雰囲気は堅苦しくない。
副長官という立場のジェレミアスだが、長官を務めるのは貴族出身の晶術師だった。平民からの叩き上げであるジェレミアスは実務に長け、親身になってくれると結晶院の中でも評判がいい。細かい仕事も率先して引き受けるジェレミアスは、いつものように倉庫の中へ入っていった。
そこには符を書くための特別な紙やインクの素、古い結晶サンプルとその収集時の記録、研究書などさまざまな物がしまわれている。
なんでもなく並んだ棚のうちの、ひとつ。その裏側に手を差し込むとジェレミアスは壁を押した。
ゴトン。
ほとんど音もたてずに壁が動く。そこに出現したのは地下へ続く階段だった。ジェレミアスは迷わず足を踏み入れる。
人当たりのいい晶術師を吸い込むように飲み込むと、その壁は再び静かに閉じた。
「ええ、よろこんで」
あらためてフロアの端で一礼し向かい合うリュティシアとエドゥアルド。背が違いすぎるのできちんと組むことはできないが、両手をつないでステップを踏み始める。その微笑ましい姿は人々の視線を集めた。
(……あの馬鹿力女め)
注目されるリュティシアとエドゥアルドの陰でひっそり踊ることになったセミオンは、忌々しさを無表情に隠す。プライドにかけて王子としての優雅さを崩すわけにいかなかったのだ。
「モンサント侯爵家のご令嬢……なるほど」
そう独り言ちたのは晶術師のジェレミアスだった。
また事故が起こらないか、警戒するために晶術師が数名配置されている。この大広間は以前に事件があった広間よりも大きく、参会者も多かった。天井の燭台はすべて事前に点検してあるが念のためだ。
彼らを束ねる立場だったジェレミアスはつらつら記憶をたどる。モンサント家には子息子女が多く、さらに結婚した者はすぐに子宝に恵まれていた。なるほど、王太子妃をあおるわけだ。
「……なんとも嫌みなお方であることよ」
ため息をついたジェレミアスはスルリと大広間を抜け出した。王立結晶院の置かれる区画へと戻っていく。
華やかな光と音楽から遠ざかって廊下を歩き、結晶院へ。舞踏会が行われていようが関係なく働いている者たちはいて、普通に頭を下げられた。だが雰囲気は堅苦しくない。
副長官という立場のジェレミアスだが、長官を務めるのは貴族出身の晶術師だった。平民からの叩き上げであるジェレミアスは実務に長け、親身になってくれると結晶院の中でも評判がいい。細かい仕事も率先して引き受けるジェレミアスは、いつものように倉庫の中へ入っていった。
そこには符を書くための特別な紙やインクの素、古い結晶サンプルとその収集時の記録、研究書などさまざまな物がしまわれている。
なんでもなく並んだ棚のうちの、ひとつ。その裏側に手を差し込むとジェレミアスは壁を押した。
ゴトン。
ほとんど音もたてずに壁が動く。そこに出現したのは地下へ続く階段だった。ジェレミアスは迷わず足を踏み入れる。
人当たりのいい晶術師を吸い込むように飲み込むと、その壁は再び静かに閉じた。